研究実績の概要 |
視床下部腹内側核(VMH)は摂食行動と交感神経(SNA)に重要な役割を果たしている。またVMHの神経細胞には摂食にかかわる様々な神経ペプチドの受容体が発現している。我々はラットのスライス標本から両側のVMH神経細胞の新しいリズミックバーストの神経活動(VMHオシレーション)を発見し、その生理学的意義について検討してきた。平成30年度は、平成29年度までの結果をもとに、研究成果を論文としてまとめ、学術雑誌に発表した。特に摂食関連ペプチドのVMHオシレーションに対する影響を詳細に調べた。生後5-14日のラットの視床下部のスライス標本からVMH神経細胞の電気活動の集合電位を記録し、各種摂食関連ペプチドを潅流投与した時のVMHオシレーションの変化を調べた。VMHオシレーションに対する作用の違いから、神経ペプチドは大きく2グループに分けられた:VMHオシレーションを促進するもの;オレキシン、CRF、インスリン、PACAPあるいはVMHオシレーションを抑制するもの;ガラニン、グレリン、NPY、CART、CCK、レプチンであった。先行研究より、前者のグループのペプチドの脳内投与は交感神経活動を亢進し、後者はそれを抑制する傾向があると報告されていることから、神経ペプチドの交感神経に対する作用がVMHオシレーションを介して起こる可能性に矛盾しない結果であった。ただし,CART、レプチンについては相反する結果となった。これらの結果を論文として発表した(Journal of Clinical Medicine, 2019, 8, 292)。また低カルシウム・高マグネシウム溶液で化学的シナプス伝達をブロックした後の、VMHオシレーションは消失せず、ギャップジャンクションブローカーによりオシレーションが抑制されたことから、この活動の形成には電気的シナプスが関与することが示唆された。
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