本研究の目的は,ナビゲーション課題を行っているラットの脳梁膨大後皮質のニューロン活動を記録・ 解析することによって,上記の逆説的な現象の詳細を明らかにすることである.このことを通して,我々動物が生きていくことに本質的だと言えるナビゲーション行動の神経メカニズムの解明を目指す. 本年度は,脳梁膨大後皮質の機能の一端を明らかにすることを目的に,脳梁膨大後皮質を損傷したラットにおいて,学習した経路の追従に対して,環境の微小な変化を与えることの影響について検討した.縦横に5本ずつ格子状に経路が走る格子状の迷路を用いて,スタートとゴールを1つずつ設定し,ラットに一つの経路を学習させた後,テスト課題をおこなった.テスト課題では学習した経路に加え,近道,遠回り,あるいは等距離となるような新奇経路を1日に1箇所与えた.新奇経路は7箇所用意し,脳梁膨大後部皮質の損傷が学習経路のナビゲーションに与える影響について検討した.その結果,学習課題においては,経路を学習するまでに要する試行数に脳梁膨大後皮質の損傷による影響は見られなかった.テスト課題においては,脳梁膨大後部皮質を損傷したラットで,一部であるが新奇経路を与えた際に,迷路内の特定の領域に侵入する回数の増加,および,学習した経路上から外れた位置に新奇経路が与えられた場合に,学習した経路から外れる行動が増加した.このことは,脳梁膨大後皮質の損傷によって自動的な経路追従が阻害され,その結果として,経路上の各分岐点で次の進路を選択をする必要性が生じるため,新奇経路を発見しやすく,そちらへの新入が増えたと考えられる.また,ニューロン活動記録のための電極を,脳梁膨大後皮質を標的として埋め込み,ニューロン活動の記録実験を実施し始めた.詳細な検討については今後の課題である.
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