ヒトは水や食料と同様に情報を求める欲求をもつ。この欲求を生じる機構はこれまで心理学や経済学において、ヒトが情報の価値を評価しより多くの情報を求める機構として研究されてきた。しかし、その神経機構は未知であった。本研究は、情報を求める行動課題遂行中のサルの前頭前野外側部から神経細胞活動を記録し、それらがこれまでに提案された情報の3つの評価基準、すなわち、経済学的情報価値、シャノン情報量、確率ゲインのいずれと相関をもつかを調べた。得られた結果は以下の通りである。1.少数の単一神経細胞の活動が情報量と相関していた(サル1で11%、サル2で8%)。2.それらの中で、経済学的情報価値と相関するものが最多で、確率ゲインと相関するものが2番目に多かった。3.記録した全神経細胞(サル1で1126個、サル2で737個)の集団活動を主成分分析した結果、サルが情報価値を評価する時の細胞集団活動の時間平均は3つの基準のいずれとも相関していた。4.情報価値評価時の細胞集団活動の時間変化を解析した結果、細胞集団活動は経済学的情報価値と相関する時間が最も長く、確率ゲインと相関する時間が2番目の長さで、シャノン情報量と相関する時間はなかった。 以上から、本研究で用いた行動課題では神経系は経済学的情報価値と確率ゲインを計算していることが示唆された。経済学的情報価値は期待報酬を最大化する意味で最適だが、その計算にはすべての報酬の得られる時点とその確率を知る必要がある。本実験では動物を十分訓練した後に細胞記録を行ったために神経系はそれらの学習が可能であった。一方、確率ゲインを含む心理学的情報価値基準は現時点と次の時点の報酬のその確率から値が計算でき、繰返し学習なしの多くの場合でも計算できる。これらから、神経系は本研究の行動課題では最適な経済学的情報価値を計算したが、通常は確率ゲインを計算している可能性が示唆される。
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