昨年度に引き続き、最終年度として共感情動の総合的な解析を行った。共感情動は近年注目されている情動のモードであり、対人関係等の困難などが社会的な問題となっている中、その基盤を明らかにすることは社会的に重要な課題であると考えられる。本研究では様々な試みを通じその一端を明らかにすることを目指した。特に近年著しい発達を遂げつつあるニューラルネットワークを取り入れ、共感行動の解析の新たな可能性を探った。具体的には、新たな動物群を用いて行動を記録し解析対象を広げ、解析に用いたニューラルネットワークの改善向上に努めた。本年度の成果としては、まず手法の面でニューラルネットワークの構造を大幅に更新し、昨年度までのボックス状領域を使った行動記録の解析から、semantic segmentationと呼ばれる方法を導入し、個体の形に沿った検出が可能になるようにしたことが挙げられる。これを用いた解析を進め、昨年度までは弱いショックを受けたマウスの個体とそれを観察した個体を離れた空間で別々に解析していたが、今年度はそれぞれの個体を同一の空間に入れ、個体間の相互作用がどうであるかを調べた。その結果、2つの個体が寄り添う行動(consolation(慰め行動))が新たに共感の発生を強く示唆する行動として捉えられた。これは形を詳細に解析する今回の手法により初めて明確になった知見であり、共感行動の新たなモードとして深い意義をもつ。また、前年度までの解析から、freezing(不動)とrearing(立ち上がり)行動では状態を尽くしていないことが示唆されていたので、データを再検討した結果、sniffing(匂い探索行動)を分類基準として見出し解析対象に加え、行動の分類が精密化できた。以上の結果は共感行動の発生維持の解明に寄与するものであり、今後別の観点からの研究を加えたさらなる解明の基盤になると考えられる。
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