研究課題/領域番号 |
15K01846
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
松股 美穂 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (50595460)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 手綱核 / 脚間核 / アセチルコリン / 社会的闘争 / 優劣関係 / ニコチン |
研究実績の概要 |
平成28年度は前年度の研究を進展させ、学会発表、論文作成を行った。また論文投稿準備中である。 MHbは背側部と腹側部(dMH及びvMHb)に分けられるが、背側部からはグルタミン酸(Glu)とサブスタンスPが、腹側部からはGluとアセチルコリン(ACh)がそれぞれ別々に放出され、標的領域もIPNの周辺部と中心部と異なっている。研究代表者が所属する研究室では、この二回路が社会的闘争時にそれぞれアクセル及びブレーキとして働くことを、ゼブラフィッシュの相同回路を用いて平成28年度に発表した。 哺乳類でも同様にvMHb-IPN回路は闘争時のブレーキの役割を果たしており、AChの合成を阻害(ACh合成酵素の領域特異的欠失マウスを用いた)すると急性闘争時に勝利しやすくなり、vMHb-IPN回路を活性化(光操作性レセプター活性型をvMHb-IPN特異的に発現誘導)すると急性闘争時に敗戦しやすくなった。vMHbから放出されるACh及びGluはIPNニューロンを活性化することが報告されており、研究代表者の実験でも確認した。IPNのニューロンは比較的高濃度のニコチンの体内投与により活性化されることがわかっている。そこで、ニコチンを体内投与し、vMHbの下流となるIPNのニューロンに強制的に活性化したマウスが急性社会的闘争時に敗戦しやすくなるかどうかを確認した。 マウスの急性社会的闘争時の行動は、30cmのアクリルチューブの両端から2匹のマウスを向かい合わせに入れ、どちらのマウスが相手を押し出すかで②匹の優劣関係を検出する(チューブテスト)。ニコチンを投与したマウスは、vMHb-IPN回路を光刺激で活性化した時と同様、穏やかな性格を持つことがわかっているC3Hラインマウスにも敗戦しやすいことがわかった。以上のことから、社会的闘争時、vMHbの活性化→IPNの活性化が降参ポイントを決定することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は論文の受理を目指し、データの解析及び論文作成に時間をかけた。また学会発表をし、外部への報告も行ったため、実験の進展は多少滞った。そのため、急性社会的闘争の結果、その関係性が慢性化していく際のvMHb-IPN回路及びそこに含まれるニューロンの反応の変化についての知見はまだ得られていない。一方、vMHb-IPN回路の急性社会的闘争時における役割については、他者による部分的知見ともよく合致し、仮説の信頼性がさらに上がったと考えられる。 現在は急性期から慢性期への行動の変遷を検出する系を模索中である。どのくらいの時間で慢性期の関係性を受け入れるようになるのか、またその際のvMHb及びIPNの細胞の反応性がどう変化するのか、その反応性の変化が何に起因するものなのかの解析を順次行っている最中である。さらにvMHb-IPN回路への介入を行うことで、上記の関係性がどう変化するかも観察中である。また、本年度は論文受理が達成できなかったので、上記解析を加えて受理を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
申請時に立てていた仮説について、変更点が生じた。IPNの直接の投射先を社会的闘争時に「闘争/逃避/すくみ反応」のどれを選択するかに関わるとされている中脳灰白質(PAG)と想定していたが、最新の報告により縫線核(raphe)が含まれることがわかった。申請書に記入した通り、社会的闘争については、縫線核―前頭前野回路も平行な、あるいは上下関係のある回路だと想定してはいたが、この報告により上下関係のある回路である可能性が高まった。縫線核からPAGへの回路もあるようなので、縫線核からの上行回路は対戦相手や状況の記憶や認識に、下行回路は身体の動きの制御に関わっているのかもしれない。 これらの知見や仮説を元に、 ①vMHb-IPN-rapheの回路の詳細な解剖学的同定;IPN、rapheはいくつかのニューロンが混在しており、さらに神経核内制御としてのGABAニューロンも存在する。vMHbのACh/Gluニューロンの投射先ニューロンをIPN内で同定し、さらにそのニューロンがrapheのどのニューロンに投射しているのかを、解剖学的手法及び組織学的手法で正確に同定する。 ②さらにその回路への介入実験を行い、社会的闘争反応を調べ、vMHb-IPN回路への介入と比較することで総合的な知見を得る。 上記で述べた通り、IPNやrapheには神経核内制御を行うGABAニューロンが存在するため、vMHb-IPN-rapheの繋がりを慎重に見極めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の節約ができ端数が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費は、実験に用いる実験飼育、ウイルスベクターの作成及び入手などの消耗品購入の経費に使用する予定である。また学会発表のための旅費、論文投稿料、英文校閲費にも使用予定である。
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