研究実績の概要 |
霊長類大脳において、色と形の視覚情報は異なる脳領域で別々に処理され、その後統合されると考えられている。本研究では、霊長類 の高次視覚野における色と形の処理経路の神経基盤を明らかにすることを目指している。本年度は、以下の研究を実施した。
1マカクザルの高次視覚野である第4次視覚野の脳活動が、空間的注意によって影響を受けることは知られているが、その皮質内での分布がどのようになっているのかは詳細には分かっていなかった。本研究では、カラムレベル(~0.5μm)の空間分解能を持つ内因性光計測法を用いて、第4次視覚野における空間的注意による影響が複数のカラムにまたがって広範囲に分布することを明らかにした。また一方で、カラムの色や形への応答選択性には影響がないことがわかった。この広範囲にわたる脳活動への影響は、Reynoldsらによって提唱されている注意の正規化モデル(Reynolds and Heeger 2009)における正規化プール(normalization pool)に当たることが示唆された(Tanigawa et al., Frontiers in Neural Circuits 2016)。
2下側頭葉皮質と前頭前野における色の想起の神経基盤を明らかにするため、色の想起を必要とする行動課題を遂行中のニホンザルから記録された皮質脳波に対して、情報の伝播を明らかにできるグランジャー因果解析を行った。その結果、下側頭葉皮質から前頭前野へのグランジャー因果が、シータ波において顕著に上昇することが明らかになった。このことは、色の想起において、下側頭葉皮質から前頭前野への情報の伝播が、シータ波を介して行われることを示唆していた(Sasaki et al., 日本神経科学大会 2016)。
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