研究実績の概要 |
研究を確実に遂行するために結果を段階的に確認しながら業務を実施した.本研究の旨であるOptogenetics の適用にあたりチャネロドプシン光感受性タンパク質ミュータント(ChIEF),ウイルスベクタ(AAV-DJ),プロモータ(CaMKII)を目的に最適なベクタとして選定し,コンストラクトを完成した.所属機関の遺伝子組換実験の認可を得て,ウィルスベクタによる導入遺伝子発現効率の確認のために慢性行動実験に先行して亜急性実験を準備した.微小電気刺激による大脳皮質運動野における上肢領域の神経支配領域を特定し,当領域にベクタを注入した.続く慢性行動実験のために並行して別個体のタスク訓化とサル覚醒行動下におけるマルチチャネル電気生理実験装置をセットアップした. 加えて,すでに収録済みのサルの随意運動時の慢性実験データを詳細に解析した.その結果,サル上肢到達把持運動における試行間を通じた運動野のベータ波の位相ロックについて, (1)出現は強い力を要求されるタスクにおいて再現性が高い.(2)一方で試行内における他の運動のタイミングについて位相ロックは運動待機状態の開始時に出現するがタスクの違いでその出現頻度に顕著な差はなく, (3)またタスクにおいて上肢の力の強弱の違いが最も現れると予察された把持の終了時(把持されるレバーを引き終わるタイミング)では位相ロックの出現頻度についてタスク間の差はなかった. (4)運動開始を指示する聴覚刺激がある場合に位相ロックは出現した. (5)神経活動と同時記録された12の上肢筋肉の活動について9は活動開始前に位相ロックが出現しなかった. これらの結果は運動野におけるベータ波の位相は筋活動という運動の実質的な情報を表現しておらず,後に続く運動で発生する力の強弱や,音のある無しなどのタスクの文脈を表現することを示唆する.
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