研究実績の概要 |
霊長類におけるベータ脳波の機能的な意味については不明な点が多い.本研究は最終的にはベータ脳波発生中の神経回路の活動を制御して,動物の行動変化を調査することで,ベータ脳波の機能同定を試みる.この目的のため光遺伝学手法(オプトジェネティクス)を導入した. 最終年度については前年度からの記録を継続して,2個体のサルについて光刺激に対する神経細胞応答と上肢筋活動を確認した.更に記録電極を用いた微小電流刺激による実験を同時に実施し,特定の神経細胞だけを刺激する光刺激と,刺激部位周辺の細胞や軸索を全て活性化させる従来からの電流刺激手法が本質的にどのように違うのかを調査した.またベータ脳波の周波数構造を有する光刺激を試み,神経応答を記録した. 刺激記録終了後に細胞標識による光感受性タンパクの発現を確認するために,光感受性遺伝子(チャネルロドプシン)と共に導入された蛍光タンパクの標本組織を作製した.前年度までに実験を終了した1個体と合算し,本課題3カ年の実施期間において計3個体(ニホンザル, オス2頭, メス1頭)を使用した.以上の結果を通じて,サル皮質運動野における光遺伝子発現を十分な確度で成功させた. また上記と別個体のサル1頭について,その皮質運動野から運動課題中のマルチチャネル神経活動記録を実施し,ベータ脳波発生中の神経回路を構成する神経細胞集団の活動を解析した.その結果,課題提示視聴覚刺激に応じてベータ脳波の特定の位相が試行間を通じて出現することを明らかにした. 今後はサル上肢運動中における手指運動分析と皮質運動野のベータ波の関係性について国際的な共同研究を行う.運動課題中の光刺激の有無による手指関節角度変化を分析し,同時計測される神経活動データからベータ波位相応答と運動の関係を明らかにする.
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