研究実績の概要 |
本研究は,虚血性脳梗塞の病態解明と治療法開発のため,動物モデルを対象に細胞小器官の活動を反映する微細な光散乱パターンを用いて,脳組織のバイアビリティーの時空間変化をin vivoで可視化することを目的とする。細胞小器官の動きの指標になると予想される光散乱パターン(レーザー光照射によるスペックルパターン)は,光散乱体(細胞小器官等)が静止していると明暗が強い像となる。このとき画像の強度分布(ヒストグラム)は広がる性質を持つ考えられるため,この広がりを数値化・マッピングすれば細胞の活動すなわちバイアビリティーを可視化できると考えた。初年度は,この強度分布の広がりを数値化・マッピングする画像処理プログラムを作成し,ラット脳梗塞モデルを対象に画像の強度分布の広がりと梗塞領域の関係につき調べた。次年度は,強度分布の広がり(以下分散値とする)の病態生理学的意味を理解するため,分散値の時空間変化と脳血流の変化,梗塞周辺脱分極の発生,梗塞領域との関係につき調べ,分散値の増大がバイアビリティーの低下を示唆する可能性を示した。最終本年度は,分散値の増大と病理組織学的変化との関係を明らかにすることを目的として以下の研究を実施した。 イソフルラン麻酔下にラット頭部を固定し,頭部左半球を波長780 nmのレーザー光で照明し,組織からの後方散乱光を経頭蓋骨的にCCDで撮像した。中大脳動脈閉塞により局所脳虚血を作製し,90分間撮像を行った。撮像終了翌日にラットを犠牲死させ脳を取り出し,TTC(2, 3, 5-triphenyltetrazolium chloride)染色を行ったところ,分散値の増大した領域が梗塞壊死領域になることが確認された。この結果から,細胞小器官の活動を反映する微細な光散乱パターンは,組織バイアビリティーの低下の指標になりうることが示唆された。
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