研究課題/領域番号 |
15K01867
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
南 裕子 一橋大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (40377057)
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研究分担者 |
閻 美芳 宇都宮大学, 農学部, 講師 (40754213)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中国 / グリーン・ツーリズム / 自治 |
研究実績の概要 |
日本国内(2回)と中国での研究会(1回)、中国現地調査、文献研究を行った。 中国での研究会(8月)では、清華大学建築学院の農村計画、設計の専門家2名から、農村景観の保全と観光開発について、各地の事例紹介と分析があり、農家や村の自律性や主体性の問題について意見交換を行った。 現地調査は、当初の予定通り、グリーン・ツーリズムの展開過程、運営方法の異なる2地域(北京市懐柔区、山東省莱蕪市)での現地調査を8月に実施した。 国内での研究会は、2回とも研究代表者と分担者の2名で行い、現地調査前の研究会では、グリーン・ツーリズムに関連する諸政策・制度、内外の研究成果についての文献調査結果や各自がこれまで行ってきた農村研究の成果から、本研究の理論的枠組、調査仮説の検討を行った。現地調査結果を踏まえた平成27年度末の総括の研究会では、本研究が目的とするグリーン・ツーリズム実施地域における農村の自治、公共性について、以下の論点を共有し議論を深めた。(1)外来者に農家民宿の経営を委託する農家の増加による地域の混住化の進展と自治組織の機能変化(管理のための准行政組織化)、(2)村の権力構造の中で個人の専横を抑止する村民の規範意識と行為(自治の一つのあり方)、(3)グリーン・ツーリズム関連の経営活動を行う農家自身による内発的な新たな秩序形成の可能性の具体的な表れとして、経営能力の突出した農家による準公共空間の形成、(4)共産党組織と一体化した村の経済組織主導のグリーン・ツーリズム運営について、個人のエンパワーメントを前提とする従来のコミュニティ・エンパワーメント論からの解釈の問題(再構築の必要性)、(5)NPOとの連携により地域の新たな公共性が開かれる可能性。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨今の中国における(海外からの)社会調査受け入れをめぐる情勢を考えると、現地に入り、比較的自由に、また一部農家にはかなり深くインタビューできたことは、本研究の順調な進捗に大きく寄与している。ただし、地方政府との接触をいかにはかるかは課題として残っている。 伝統的村落景観の保存と再生に向けて、実践的、理論的に積極的な活動を展開する清華大学の専門家と研究交流関係を構築できたことは、本研究に新たな視点をもたらし、また今後、この分野の最新の動向を把握することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得られた成果を基にして、引き続き、日本国内および中国での研究会と現地調査を進める。学会等で研究の中間報告も行う。 本研究の目的である地域の自律性、自治のあり方を考える上で、ツーリズム論で展開されている「参加」や「エンパワーメント」等の地域社会の政治権力にかかわる議論を、中国農村の文脈に即して理論化する必要がある。この点については、平成27年度はまだ大きな進展を得られておらず、今後重点的に進める課題となっている。 平成28年度は、国内研究会2回のうち1回は、中国のグリーン・ツーリズムや村民自治研究の実績のある日本国内の研究者をゲストスピーカーに招き、研究交流を行う。 現地調査については、平成27年度に、山東省の調査地において、隣村が集落再編事業と共にグリーン・ツーリズムに着手する計画にあるとのことで紹介を受け、平成28年度以降の調査候補地を新たに得ることができた。このため、研究分担者がこの村を継続して調査することの可能性を探る。一方、研究代表者は、古村落と呼ばれる農村景観の保存、再生が課題となる地域に調査を広げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
中国現地調査において、中国側の協力機関の取り計らいにより、中国国内での車両借上げ代が発生しなかったため、当初予定予算より、旅費を節約することができたため。 調査録音のテープおこしを業者に依頼するあたり、業者選定に時間がかかり、年度内に業務完了してもらうためには、平成27年度に依頼する業務量を予定よりも若干減らすことになってしまい、予算よりも支出が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画では、研究代表者と分担者は同一地域への調査を予定していたが、平成28年度はそれぞれ別の調査地に入ることにより、事例地域の比較の幅を広げること(交通費の増加)と特定地域への深い調査(滞在日数の増加)を行う。
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