研究課題/領域番号 |
15K01875
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 香子 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (60467420)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 女性の開発 / ライフコース / 成人儀礼 / 代替儀礼 / 「伝統」のポリティクス |
研究実績の概要 |
本研究は、アフリカにおけるFC・FGM/C(女子割礼・女性性器切除)の現状とその廃絶運動に対する当該社会の反応を包括的に理解することを目的として実施している。欧米主導によるトップダウン型のアプローチの廃絶運動は、多くが「当該コミュニティとの認識の乖離」という問題に直面している。これを解消する方途を探り、<ボトムアップ型=民族誌的アプローチ>による当事者主体の廃絶運動の構築を目指している。現代アフリカでは、社会・経済状況が急激に変化し、人々の価値観もまた多様化を極めている。本研究では、FC・FGM/Cをめぐる選択肢の多様化とその選択のプロセスを解明し、女性の社会的地位・権利のなかにFC・FGM/Cを位置づける。 1990年代後半からの約20年間に、この慣習をもつアフリカ・中東の29カ国のうち26カ国が禁止法を制定したが、これはトップダウンで進められてきた欧米主導の廃絶運動が一定の成果をあげたことを示している。しかし、これらの法律は罰金や禁固をともなう厳しいものが多かったため、慣習の隠蔽・潜伏化がすすんだり、女性の結婚年齢が若年化するという問題が発生しており、法律整備は、それだけでは廃絶運動のゴールとはなり得ないことは明らかである。 本研究では、FC・FGM/C(女子割礼・女性性器切除)の現状とその廃絶運動に対する当該社会の反応を現地調査によって明らかすることを試みている。コミュニティにおける廃絶運動は主として開発プロジェクトによる教育プログラムをとおして行われているが、その内容がどのようなものなのか。運動推進者は、どのような方法で、何を主張しているのか。それに対するコミュニティの反応にはどのようなものがあるのか。現地調査によって得られたデータを分析しながら、FC・FGM/Cの問題を現地の文脈から捉えなおし、課題解明をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献資料・開発関連資料の収集とその読解により、アフリカにおけるFC・FGM/Cの歴史と現状、および廃絶運動の全体像を把握した。 ケニア、サンブル県において現地調査を8月と2月に合計3週間実施し、今後の調査の基盤となる網羅的調査を実施した。網羅的調査の項目は次のとおりである。【10才以上の女性80人を対象に】名前、居住地域、生年、宗教、父親の宗教/クラン/年齢組/教育経験/職業、FC・FGM/C経験の有無、FC・FGM/Cの時期、FC・FGM/Cを行った場所、施術者、施術方法、結婚時期、夫の宗教/クラン/年齢組/教育経験/職業、婚前の家族構成、婚前の恋人の有無と相手の宗教/クラン/年齢組/教育経験/職業、結婚後の家族構成、自身の教育経験/職業、出産回数と時期、離婚経験の有無と時期、夫が亡くなった時期(未亡人)<以上> 網羅的調査と平行して、国際NGO、ローカルNGO、CBOで活動する人びとにインタビューを実施し、FC・FGM/Cの廃絶プロジェクトの活動内容の詳細を明らかにした。彼らは「セミナー」を開催して、コミュニティにFC・FGM/Cの問題点を教育することを行っている。この教育プログラムの内容は、いずれの活動団体においても大きな差がなかった。すなわち、、WHOが提示する「医療言説」にもとづいてFC・FGM/Cの危険性(痛み、出血、ショック、出産困難など)が反復・喧伝されていた。また、代替儀礼も提案されていた。 こうした教育に対するコミュニティの反応は、比較的冷めたものであり、特に問題にしていないように見受けられた。しかしながら、一部の人びと、とくにつよくキリスト教化した人びとのなかには、廃絶に積極的な人も現れており、人びとの対応は一枚岩ではない。
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今後の研究の推進方策 |
サンブル社会ではFC・FGM/Cは「女性の身体を出産可能にする」と考えられており、従来は、婚姻儀礼の一部としてこれが行われてきた。しかし近年、結婚以前にFC・FGM/Cを行う女性が急増するとともに、女性が割礼を受ける年令は低年齢化し、結婚年齢は高齢化するという現象が、網羅的調査の分析から明らかになった。割礼を受ける年令は低年齢化が、娘の割礼に本人が意思決定できる可能性に影響を与えていることが考えられる。今後詳細に調査していきたい。 また、結婚以前にFC・FGM/Cをすませてしまうことから、未婚で出産する女性が急増している。こうした女性たちのなかには、世帯主として経済的に自立し、パートナーを自由に選びながら出産を続け、生涯独身を貫く意志を示す人もいる。「女性の人権侵害」として廃絶が叫ばれているFC・FGM/Cが、逆に、女性の自立や人生の選択の自由の基盤をなすというパラドックスがおきている。自立や自由を手にしつつある、すでに割礼をうけた女性たちが、さまざまな開発支援プロジェクトがこの問題の廃絶を訴え、さらに厳しい禁止法の制定とその罰則のもとで、この問題をどうとらえていくのかについて、インタビューによって明らかにしていく。 また、近年、割礼の施術の方法が多様化していることも明らかになったが、その多様化の過程と詳細についても、割礼を執行する割礼師などへのインタビューや、さまざまな選択肢がどのように創造されているかの検証を行うなど、さらに現地調査を継続して明らかにしていく。
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