研究課題/領域番号 |
15K01875
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 香子 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (60467420)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 女性の開発 / ライフコース / 成女儀礼 / 代替儀礼 / 「伝統」のポリティクス |
研究実績の概要 |
現代アフリカでは、社会・経済状況が急激に変化し、人々の価値観もまた多様化を極めている。本研究は、アフリカ女性の人権の問題として、近年ますます強くその廃止が叫ばれているFC・FGM/Cをめぐり、当事者がいかなる選択肢をつくりあげ、どのようにその選択をおこなっているのかというプロセスの解明を目的として現地調査をもとに研究をすすめている。現在は、昨年度おこなった網羅的調査の結果を基盤として、インタビューを実施し、具体的な事例の収集に注力している。ケニアでは、2011年にFGM禁止法が制定され、違犯者は禁固刑をふくむ厳罰に処されるようになったが、このときの「違犯者」には、施術を受けた女性の両親、施術者のみならず、望んで施術を受けた本人も含まれる。このため、この慣習が現在まで強く維持されてきた社会においては、隠蔽化の進行が顕著であった。また、廃絶を受け入れるか否かをめぐりコミュニティ内部で対立が起きるなど、人間関係の複雑化も進行している。一方で、女性自身がそれを望まない場合には、拒絶する道も拓かれつつあることも同時に明らかになってきた。 また、異なる背景をもつ社会でFC・FGM/Cの実施と廃絶運動がどのようにおこなわれているのかを比較しながら研究をすすめている。廃絶運動が近年急速に力を増しているケニアとの比較対象として、廃絶運動はほぼ終息し、人々はFC・FGM/Cをやめたか、もしくはできうる限り隠蔽する形で継続していると考えられるエチオピア、FC・FGM/Cの問題が政治論争のトピックとして強く表出しているスーダンをとりあげながら考察をすすめている。2016年度は、「政治化する<女子割礼/女性性器切除>:スーダンとケニアの事例から」と題した公開研究会(2016年7月16日、京都大学)を実施し、エチオピアやサウジアラビアを調査地とする研究者や実務家などの参加を得て議論を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査地では、さまざまな国際NGO、ローカルNGOがFGM廃絶を掲げたプロジェクトを展開している。人々はこうしたプロジェクトに、雇用されたり、セミナーに参加したり、学資や食糧などの支援を受けたりなど、多少なりとも関与しはじめている。このことをとおして、人々はFC・FGM/Cに対する自身の考えを問い直すきっかけを与えられており、調査は非常に時宜を得ている。しかし、これと同時に、おもにプロジェクトがもたらす金銭的な利害の不一致などから、対立が生まれたり、FC・FGM/Cを行おうとした人を極秘で警察に通報するといった「スパイ」的な行為も横行しはじめており、コミュニティの人間関係が複雑化しつつある。このため、現地調査は容易ではなくなっている。 また、ケニアにおいて2017年におこなわれる選挙では、候補者たちはFC・FGM/Cに対する立場を問われることが推測される。この機会を利用して、この問題の政治化のプロセスを詳細に解明しようと考えている。「政治化」という観点では、ケニアとの比較対象として、当初計画していたエチオピアではなく、「政治化」がより進んでいると考えられるスーダンの事例を主としてとりあげながら研究をすすめている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、現地調査を9月に実施する。この調査で引きつづき聞き取りと観察によって、具体的な事例の収集を継続する。加えて、8月に行われる総選挙に関連して、候補者たちがFC・FGM/Cの問題をどのように選挙キャンペーンで利用したか/利用しなかったか、また、投票の際に人々がこの問題に対する候補者の立ち位置を考慮したのか/しなかったのかについてもの聞き取りにより明らかにしたいと考えている。当事者の女性に対するインタビューでは、所属している学校によってFC・FGM/Cに対する態度が異なっているという現象がみられたため、具体的な学校教育の内容、もしくは、学校内のキーパーソンとなるような人物の存在がFC・FGM/Cに対する選択に及ぼしている影響力が大きいことが推測された。コミュニティー内の学校をまわり教員を中心とした関係者に対するインタビューを行いこの点を解明していく。また、FC・FGM/Cの施術方法にもいくつものバリエーションが誕生しているため、可能であれば施術者にもインタビューを行いたいと考えている。しかしながら、FGM禁止法では、施術者は犯罪者として扱われるため、関与している人々は身を隠す傾向にあるなど、とてもナイーブな問題であり適切な調査方法の選択が課題となってくる。 また、支援プロジェクトを呼び込む目的で、女性たちが自身の貧困や夫・父親からのDV、加えて、FC・FGM/Cの問題を観光客に訴えかけるという動きもみとめられている。コミュニティの女性リーダーが中心となって進めているこうした動きのなかで、これまで馴染みのあまりなかったグローバル・ディスコースにのせて自らのライフヒストリーを語るということを行いながら、女性たちの価値観がどのように変容していくのか。そしてそのことがFC・FGM/Cに対する選択にどのような影響を及ぼしうるのかについても目を配りながら調査を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入予定であった物品の購入を次年度に延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
映像、音声データの整理のための機材を購入する。
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