本年度は、都市近郊村であるヤンゴン北部県タンダビン郡内において、昨年度までに実施した村落調査によって収集したデータの精査、分析を行った。そこから、少なくとも調査時点においては、都市近郊においても農地の転用圧力は小さく、主要産業は農業であること、農作業は伝統的な農業労働者の雇用から大型農業機械を用いた農作業委託へと急速に変化しつつあることが明らかとなった。とりわけ、都市での雇用機会拡大の影響を受ける近郊農村においては、労働力の減少が農作業委託を促し、またそれによって農作業の機械化が進展している。 この分析過程で明らかになった調査データの不備や不明点の解明のために、2018年9月に補足調査を実施した。また、農作業委託の実態解明には、当初の調査計画に含めていなかった収穫作業受託業者の調査が不可欠であり、2018年9月および2019年2月に、タンダビン郡内において収穫作業受託業者へのインタヴュー調査を実施した。収穫作業受託の専業は、収穫期が異なる広範な地域を移動しながら作業を受託し大型農業機械の稼働率を上げることによって拡大していることが明らかとなった。 ヤンゴン近郊村は、世界経済への再統合が進むミャンマーにおける都市経済活性化などの間接的影響のみならず、農村人口の流出や農業機械の普及など直接的影響を強く受ける社会経済構造の急激な変化の事例である。本研究から得られた知見は、経済発展段階に関わらず世界経済への統合が加速的に進む現代世界において、後発開発途上国の農村が経験する急激な社会経済構造の変化メカニズム解明に寄与するものであり、農村社会構造の理論的枠組み構築に基礎情報を提供する。 ただし、農村の社会経済構造変化と人口停滞との関係については、詳細に分析することが出来なかった。今後も引き続き分析を行うとともに、遠隔村との比較研究に発展させる計画である。
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