研究課題/領域番号 |
15K01888
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研究機関 | 常磐大学 |
研究代表者 |
中岡 まり 常磐大学, 総合政策学部, 准教授 (80364488)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中国政治 / 議会 / 腐敗 / 買収 |
研究実績の概要 |
就任以来、習近平政権は反腐敗闘争に取り組んできた。なかでも近年、選挙における買収(賄選)としては、遼寧省人民代表大会(以下、人大と略す)が選出した全人大代表について、大きく取り上げられている。 2016年9月13日に、遼寧省選出の全人大代表45名が贈賄により当選無効となることが第12期全人代常務委員会委により採択された。17日には全人大代表を選出した遼寧省人大代表619名のうち452名が職務を停止された。 これに対して、党と政府は、非常に厳しい態度を示した。全人大常務委員長の張徳江は、「党規約と国家の法に対する厳重な違反であり、政治規律と政治規範に対する厳重な違反であり、(中略)人大選挙制度を厳重に破壊する重大案件」と指弾した。遼寧省人大の買収選挙を扱った研究は、①贈賄側の当選した全人大代表45名中42名が企業家であったことに注目し、政商関係の変化について論じ、これが腐敗に繋がっている点を指摘するものと②人大選挙制度の不備について論じ、改善策を提起するものが多い。 しかし、遼寧省の全人大レベルの事案を、同時期に報道された四川省南充市、湖南省衡陽市という下位の行政レベルの類似した事案と合わせて再検討すると、買収の対象となる議席の枠が行政レベルによって変化することが明らかになった。全人大レベルでは企業家枠のみが買収の対象となり、党政幹部枠は買収されていない。しかし、衡陽市のケースでは企業家枠のみならず党政幹部枠も買収の対象となっており、「買うことができる議席」となっている。通常、人大選挙においては代表の構成比はあらかじめ設定されており、これを遵守されることが人民及び体制内エリートに対する党の権力の源泉となっている。しかし、遼寧省、南充市、衡陽市人大の買収選挙の事例は、党の支配が及ばない領域が下位レベルで拡大していることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2016年に行われる北京市での基層人民代表選挙に際して、投票行動に関するアンケート調査を行い、これまでの投票行動に関するアンケート調査との比較を行う予定であった。しかし、習近平政権下では研究者の研究および研究交流の自由が著しく制限されるようになった。このため、中国側のカウンターパートである研究者に対しても、別件で研究交流に関して当局による「調査」が行われ、研究交流に伴うデータのやり取りは厳しく指摘があった。よって、予定通り投票行動に関するアンケート調査は行われたものの、調査結果を当方に渡すことは困難となっている。 また、メールも基本的には監視されていることが想定されるため、アポイントを取ることも中国側研究者を危険にさらす可能性があるため、控えなければならなくなった。 そこで、2017年度は文献調査が可能なテーマに方向を変え、人民代表大会選挙における買収投票をテーマとして文献・資料を収集し、分析することとした。このため、研究が遅れていると言わざるを得ない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
中国側研究者による投票行動に関するアンケート調査は行われているため、2018年度は彼らを日本に招聘し、研究成果についての報告を行っていただき、当方による投票における買収投票に関する研究と合わせて、研究交流を行い、2016年選挙における投票行動と人民代表の在り方の変化について取りまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、中国で行われる投票行動に関するアンケート調査のデータを譲渡していただく費用として予算を計上していた。しかし、習近平政権下では、海外の研究者、研究機関との研究交流に圧力がかかり、特にデータの譲渡は国家機密漏えいを疑われる可能性があるため、中国側研究者に危険が及ぶことが予想された。このため、2017年度はデータ譲渡を諦め、交流も最小限にとどめ、文献調査を行うよりほかなくなった。2018年度は状況が少しでも好転することを期待し、データ譲渡は困難が予想されるが、研究交流を行うことにより調査結果に触れることができるよう努めたいと考え、研究交流会を企画している。
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