本研究の目的は、選挙活動を通じた中国の公共空間の変化と、それに伴う中国共産党の権威主義体制の変容の可能性について明らかにすることであった。具体的には、2016年に行われた地方人民代表大会直接選挙を研究対象として、中国における政治参加の様相と共産党政権の統治の変容の可能性を探ることを目的としていた。 しかし、政治的な理由により、計画通りのスケジュールで本研究を進めることができなくなり、計画の変更を余儀なくされた。2012年に中国共産党総書記に習近平が就任して以来、中国では政治分野の研究に対する締め付けが厳しくなった。国内の選挙研究者に対しても過去の外国研究機関との交流に対して調査が入るなど、選挙研究と対外交流は中国の研究者の研究者生命と身の安全が危険な状態になった。このため、筆者は2016年は予定していた選挙の見学を取りやめ、2017年には中国側研究協力者との連絡も一時断たざるを得なくなった。 そこで、2016年から17年には文献調査を中心とし、主に選挙における贈収賄による票の売買に関する研究を行った。遼寧省の全人大代表と湖南省衡陽市という下位の行政レベルの類似した事例を合わせて検討すると、買収の対象となる議席の枠が行政レベルによって変化していることが分かった。全人大レベルでは企業家枠のみが買収の対象となり、党政幹部枠はわずかしか買収されていない。しかし、衡陽市のケースでは企業家枠のみならず市・区レベルの党政幹部枠も買収の対象となっており、「買うことができる議席」となっている。これは資本の力が党の指導よりも有効に作用する領域が下位レベルで拡大していることを示している。 2018年に入り、些か状況が好転したため、中国側との連絡を再開し、同年夏に調査データの入手に成功した。現在は、そのデータ整理と分析を開始している。
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