平成29年度は、前年度に引き続き2010年ハイチ大地震からの復興状況や政治・経済・社会状況の把握に努めるとともに、開発協力(とくに中西部における水・医療・衛生・農業など)の事例、および地域国際関係の展開に関する研究を進めた。これを遂行するため、平成29年8~9月と平成30年2~3月にかけて2回の現地調査(周辺国を含む)を行った。とくにハイチ地方部における調査は重視した。一連の現地調査では、震災復興が緩やかながらも前進していること、新政権発足の大幅遅延という問題がありながらも政情は安定化しつつあること、他方で援助との抱き合わせで受けてきた外交圧力への不満が限界に達し、資金使途をめぐる論争をきっかけにハイチ政府が国連や米国に露骨な対決姿勢を見せ始めていることなどを把握できた。研究成果については1回の学会報告と共著書2冊の刊行(これら2冊の中で本件研究に関わる5つの章もしくはコラムを担当)によって行った。 以上を含め、研究期間全体としては、計6回にわたるハイチでの調査、周辺国での調査(ハイチ系移民の調査など)、3回の国際学会への出席(研究者との交流)を行い、研究成果についても2回の学会報告と6点の論文公刊(図書に所収の論文、コラムを含む)によって公開してきた。本研究を通じ、ハイチの自然災害の脆弱性や2010年大地震からの復興の困難は、ハイチに内在する政治・経済・社会問題であると同時に、大国による国益追求型の通商・援助政策によって構造的に規定されていることを把握できた。また、それにより蓄積されてきた矛盾の限界が露呈しはじめ、近年、対ドミニカ共和国関係の悪化、カリブ共同体(CARICOM)での影響力拡大の追求、米国や国連への露骨な反発などとして現れていることを、新たな知見として獲得できた。これは今後のハイチを見ていく上でも重要な視点である。 最終的な成果を取りまとめた論文をもう1本、近く公刊する予定である。
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