2018年度は看護師の国際労働移動に焦点を当て、その決定要因について地域性等を踏まえ分析を行った。インドはフィリピンと並ぶ看護師の供給地であるが、看護師供給の分布は一様でなく、地域的要因を始め様々なファクターによって決定されることが導き出された。ここではそのうち南北格差を中心にインタビュー調査結果をもとに説明する。まず看護師の国際労働移動は南インドから海外に出かけるパターンが主で、南と比較するとUP州やビハール州など北インドのそれは少ない。その背景には、看護師教育における北インドと南インドの教育の質の違いがあること、また家族間関係が大きく影響していることが判明した。南の教育は英語が主であり、かつ海外出稼ぎを目的する学生の学習意欲が高く、海外でも通用する教育が行われている。一方、北部はヒンディー語による教育でかつ学生のモチベーションも低く、海外出稼ぎへの指向も少ない。このような南北差がさらに南での看護教育の質を高め、一方で北での教育の質低下に影響しているものと考えられる。一般的な傾向として、南部の州と比較するとUP州やビハール州など北インド諸州では、Diplomaコース修了の看護師が多く、一方、南部のケーララやタミル・ナードゥ州ではBScが主となっている。また家族間における関係性も決定的な要因となっている。南部では歴史的な背景からタミル・ナードゥ州からマレーシヤ、シンガポールへ、またケーララ州からは対岸の湾岸石油産出国への労働移動が多く、国際労働移動が広く許容されている。一方、北インドでは、本人が海外出稼ぎ労働に行きたくても親の許可がでないため難しいという回答が多く聞かれた。その他、インタビュー調査から北インドの病院の医師は南インドで教育を受けた看護師を好む傾向にあり、それは北より南の看護教育の方が充実していること、また南インド人がより勤勉であることを理由として挙げている。
|