研究課題/領域番号 |
15K01912
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
藤掛 洋子 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (70385128)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジェンダー / ジェンダーと開発 / 開発人類学 / パラグアイ / CSR / BOP / シングルマザー |
研究実績の概要 |
2017年度は、政府組織ならびにパラグアイにある複数の日系企業に対し継続したヒアリングを実施した。また、シングルマザーとして活躍する当事者へのヒアリングも実施した。調査の結果、パラグアイへの投資は年々増加しており、商工省REDIEX(輸出ネットワーク局)によると、この5年間でパラグアイ国内に25000人の雇用が生み出された。しかし、シングルマザーの雇用については、国や企業の戦略として積極的に雇用した訳ではなく、雇用した従業員がたまたまシングルマザーであったというケースが多いことが明らかになりつつある。そのため、シングルマザーであることから受ける特別な配慮などは十分になされていないケースが多い。ヒアリング対象者のシングルマザーたちの学歴は、高校卒業程度が一番多く、この傾向は2009年の調査から大きな変化はなかった。また、夜間大学に通いながら工場労働者として勤務する女性も多くみられた。勤務に対する評価は、「立ち仕事が辛い」や「生産課題のクリアがシビアである」、「バスで2時間かかる」などの意見もあったが、「やめようとは思わない」、「多くのことを学んでいる」といったポジティブな意見も多く聞かれた。 シングルマザーが多くなったことから搾乳室を作った企業があった。また、女性たちは5Sなどを学び、家でも実践し、子どもにも5Sを教えたりしているという。 政府組織や企業管理職は「器用な手先を有する女性たち」(Elson & Pearson 1981)という表現を度々使用した。しかし、それは後付けである可能性が本研究より明らかになってきた。シングルマザーたちは、企業に雇用されることで「経済的自立」を手に入れたり、「責任感」が芽生えたりしており、工場労働者であるシングルマザーは貴重な機会になっている側面も見出された。これまでのアジアにおける工場労働者のジェンダー研究とは異なる側面である可能性も高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒアリングの結果、シングルマザーの女性たちは、国家戦略ではなく、就職した結果、国家戦略として雇用されているということが言説として生まれてきたと考えられる。それでもシングルマザーたちは、企業の福利厚生を受けるのみならず、自ら積極的に次の人生計画を立てているさまが明らかになりつつある。また、シングルマザー以外には日系人の雇用についても情報が蓄積され、課題があることが明らかにされてきたため、この点については平成30年度にさらなる調査を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、シングルマザーのみならず、日系企業や多国籍企業に雇用されている日系人についてさらなるヒアリングを実施する。日系企業では、現地の日系人の雇用を積極的に進めることで、企業のパフォーマンスを上げることが目指されてきたが、日系人の雇用については複数の課題が見出された。平成30年度は日系人の位置づけや企業の日系人に対する「まなざし」について研究を継続する。また、本科研の内容について学会における口頭発表ならびに日本語ならびに他の言語で論文発表を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】研究を進める過程で、当初の計画を超えて日系人や日系人女性を調査対象に加えることでよりよい研究成果が見込めると考えたため、期間延長申請を行った。 【使用計画】調査費用ならびに学会報告の旅費等に充当する。
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