2018年度は、日系企業を含む多国籍企業に雇用されているシングルマザーに加え、日系人男性・女性、その家族にもヒアリングを実施した。調査の結果、多国籍企業に雇用されているシングルマザーたちが「器用な手先」を有する安価な労働力として取り扱われていることが明らかになるとともに、日系人に対しても同様の傾向をみることができた。日系企業側は、現地の日系人の雇用を積極的に進めることで、「日本の文化がわかる日本人の顔をした人」が日本と南米(/パラグアイ)の架け橋となり、企業の業績も上げると考えていた。また、日系企業は、日系人は、日本的な規律を守り、配慮ができる人という「まなざし」も有していた。しかし、日系人のアイデンティティは、日本人ではなく、日系パラグアイ人、あるいはよりパラグアイ人に近い日本人などであり、日本人とは異なるものであった。そのため、日本式の指導、特にOJTにおける教育方法や就業後の飲み会、週末の集いなどに対し馴染めないものも多くおり、日系企業と日系人の間で摩擦が生まれていた。雇用された日系人は、日本的就業環境や文化に馴染み、日本人の期待に応えようと日々努力はするものの、価値観のずれや摩擦が積み重なり、大きな問題に発展している事例も認められた。 4年間の研究を通し、多国籍企業におけるシングルマザーの雇用は国家戦略ではなかったものの国の中で大きく取り上げられるに至っていた。また、日系企業等がシングルマザーの雇用を行うことから、シングルマザーのエンパワーメントにも寄与していた。しかし、そのような成功を手にした女性は雇用のチャンスに恵まれた一部のもののみであった。安価な労働力として分類される女性たちも多く、その傾向は日系人にまで及んでいた。グローバル化が進展する社会の中で日系企業や多国籍企業にどのようなジェンダーや文化的配慮が必要であるのかについてさらに研究を進めていく予定である。
|