研究課題/領域番号 |
15K01913
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
杉橋 やよい 金沢大学, 経済学経営学系, 准教授 (60377009)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 男女間賃金格差 / ジェンダー統計 |
研究実績の概要 |
本研究では,EUの男女間賃金格差の指標と統計の論議に着目し,ジェンダー統計研究の視角から,次の3つの課題を設定した。①男女間賃金格差の測定方法や分析手法の意義と問題点を明らかにすること,②性別賃金に関する国際比較統計の品質を吟味し限界を踏まえた上で,①で見出した諸手法を使い,日本を含む男女間賃金格差の国際比較を行うとともに,国際比較方法の定式化を提案すること,③男女間賃金格差の是正に取り組む中で、賃金統計資料がどのようにジェンダー統計として整備されたのか、を明らかにすること,である。 さらに,この基盤(C)の研究内容を発展させて採択された国際共同研究加速基金においては,①および③については,EU・EU諸国・企業という3つのレベルについて検討することとした。 これまでに,①を中心に②と③に部分的に取り組んでいる。平成28年度では,主に,①の男女間賃金格差の指標(企業レベル)の検討を行った。具体的には,イギリスの「企業による男女間賃金格差指数の計算と公表の義務化」の法と施策に関する概略と要点をまとめ,公表すべき指標について,検討を行った。さらに,日本についても,関連する指標と議論について整理し,イギリスと比較して,それぞれ評価をした。日本が,EUおよびイギリスと比較しても,男女賃金格差の指標に関する議論がほとんどなく,指標の公開についての強制力も極めて弱いことは明らかで,日本国内の政策論議に対し重要な示唆を与えうると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに,①を中心に②と③に部分的に取り組んでいる。①では,(i)欧州委員会が決定した男女間賃金格差指数の測定方針とその変遷をまとめ、手法の意義と課題を明らかにしつつあり,(ii)企業レベルの指標の在り方について,日本とイギリスでの取組みをまとめ,さしあたりの評価を出したところである。②では,男女間賃金格差の国際比較に向け,日本の賃金構造基本統計調査のジェンダー統計性およびEUとの比較可能性について検討を行った。③は,①と②を行うことで,副次的に得られる情報であり,収集し続けている。①の(ii)が,平成28年度の研究の主な成果で,主に,企業レベルの指数について,イギリスを中心に検討を行った。 「やや遅れている」と判断したのは,本来,男女間賃金格差の手法については,28年度中にめどをつける予定のところ,企業レベルの指標の検討に集中し,国際比較統計資料をベースにした男女間賃金格差の比較の準備がおろそかになったからである。28年度に行った上記の研究内容は,本研究を発展させるために必要で意義はあるのだが,全体として,研究が遅れ気味である。遅れた原因には,(i)本研究と,直接には関係のない研究(自然災害のジェンダー統計研究)の遂行が,韓国女性開発局からの依頼に応える形で,急きょ,必要になったからであり,さらに(ii)今年度後半に,体調を崩し,当初予定していた研究および国内外の出張を遂行できなかったためである。特に(ii)は,研究を遅らせる大きな要因となった。(i)は,ジェンダー統計および指標についての検討に示唆を与えるので,本研究にも間接的に正の影響を与えてはいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の課題である①,②,③を行う予定だが,①と③については,EUおよびイギリスの企業レベルにおける,平均と分布特性値による指標に限定して,深める予定である。その理由は,(1)ヨーロッパ諸国で,男女間賃金格差を是正する主な方策として,企業レベルでのデータの公表の義務付けが注目されていること,(2)イギリスでは,ちょうど2016年に実施され,実施状況やフィードバックなどが出される頃なので,これらの収集を行うのが時宜に適っていること,(3)本研究の発展として採択された「国際共同研究強化」の内容にも合致するから,である。②については,EUの統計および指標に,日本のデータを合わせるために,ミクロデータの申請などを行い,男女間賃金格差の国際比較可能性を追求する予定である。ただし,平成29年度に産前産後および育児休暇を取得する予定であるため,1年ほど研究が中断される可能性が高い。それゆえ,研究の推進方策は,情勢に応じて変更される可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度後半から体調を崩し,当初予定していた研究計画(論文執筆および12月末および3月の海外出張など)を縮小・断念せざるを得なかったことが主な原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度一部を使用するが,今年度に産休及び育児休暇を取得する予定であり,研究の中断を予定している。仕事に復帰してから,書籍をはじめとする物品購入費および国内外での学会発表や研究訪問等に充てる予定である。
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