研究課題/領域番号 |
15K01917
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 葉子 大阪大学, 文学研究科, 助教 (60613982)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 廃娼運動 / 近代公娼制度 / 救世軍 / 矯風会 / 軍隊衛生 / 人身売買 / 性病 / 廓清会 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果は、主に以下の二つである。 ① 比較ジェンダー史研究会関西部会(2016年1月24日、奈良女子大学)で、「「軍隊衛生」と廃娼運動―日露戦争後の兵営と遊廓の増設をめぐる抗争」と題する研究発表を行った。本発表は、群馬県立文書館、和歌山県立文書館、旭川市中央図書館で得られた史料の検討を中心として、兵士の性を日本社会がどのように問題化したのか、検証したものである。2008年3月提出の博士論文で論じた本テーマについての研究の延長線上に、新たな史料調査から分ったことについて発表した。日本では、日露戦争後に、凱旋兵士の帰郷にともなう性病の蔓延が、社会問題として広く認識されるようになった。兵士の性的放逸と性病を、地方都市でどのように処遇するかということが、廃娼運動の勢力の強かった群馬、和歌山、旭川で、どのように論じられたのかを明らかにした。 ② グローバル日本研究国際シンポジウム「開く日本・閉じる日本 ―「人間移動学」事始め―」(大阪大学文学研究科主催、2016年3月23日、大阪大学豊中キャンパス)で、「満洲へ渡った女性たち―日露戦争後の国際的「婦人救済」活動とその背景」と題する研究発表を行った。本発表は、明治時代の日本で満洲へ移動した日本人女性の売春が、日本社会において問題化された経緯と、その女性たちを「救済」しようとした国際的な廃娼運動の性質や、その歴史的背景について、満洲で最も影響力のあった日本語新聞『満洲日日新聞』の記事と、日本救世軍の機関誌『ときのこゑ』、および、イギリスの救世軍本営の機関誌であるAll the WorldとThe War Cryを主な史料として明らかにした。 これら二つの発表により、帝国日本の「内地」および「外地」の人身売買と、それに対する国際的廃娼運動の動きについて、部分的ながらも、史実を新たに解明しえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ほぼ予定通り、国内および海外で史料調査を行い、国際的廃娼運動、特に救世軍と矯風会の海外との連携についての史料を得ることができた。 また、研究会および国際シンポジウムで、それらの史料を用いた研究発表も行った。 したがって、順調に研究を進展させることができているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も、継続して、国内および国外の公文書館や図書館、史料館において、国際的廃娼運動に関わる史料を収集し、それらを分析して得た研究成果を、口頭発表および著書の中で公表する予定である。 平成28年度は、大阪大学出版会より、本研究課題についての単著を刊行することが決定しているため、その執筆に最も力を入れる。また、その準備のため、特にイギリスおよびアメリカの救世軍史料館(The Salvation Army International Heritage Centre他)や、アメリカ議会図書館での調査を継続したい。
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