研究課題/領域番号 |
15K01920
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
伊田 久美子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (20326242)
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研究分担者 |
山田 和代 滋賀大学, 経済学部, 教授 (50324562)
中原 朝子 神戸大学, 男女共同参画推進室, 特命助教 (50624649)
木村 涼子 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (70224699)
熊安 貴美江 大阪府立大学, 高等教育推進機構, 准教授 (90161710)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 若年層 / 世帯内分析 / 生活の質 / 暴力の怖れ / 自己尊重感 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
私たちの研究グループは平成24~26年度に基盤研究(C)「経済危機下における若年女性層の労働と生活に関する調査研究:非正規労働者を中心に」(課題番号24510380)に取り組んだ。本研究は、その成果をふまえて、若年層の仕事と生活についての追加ウェブ調査を実施し、若年層の生活の質の世帯内分析をさらに進めることをめざすものである。 2016年度は本研究のメインである、2014年に実施したウェブ調査の回答者を対象とする追加調査によって、前回調査で明らかになった「暴力の怖れ」のさらに詳しい内容、およびそれに関連して自尊感情、幸福度、幸福度に回答するときに判断基準とする項目などを調査し、居住形態、婚姻状況、収入などの条件と生活の質の関係の詳細分析に必要なデータを整えた。先行研究の中でも、とくにケイパビリティ概念を検討し、ケイパビリティ概念における自尊感情や自己尊重感の中心性をふまえ、生活の質を測る主要な基準のひとつとすることで分担者間の合意を得た。 既に分析を進めていたパートナーのいる女性の生活の質についての論文をまとめ、日本フェミニスト経済学会誌「経済社会とジェンダー」第1号に投稿、採用された。得られた主な知見は次のとおりである。①パートナーのいる若年女性でパートナーが正規雇用者ではない者は20%強存在する。②パートナーのいる若年女性の自尊感情は夫の収入に規定されず、③自身の収入が独身者の生活保護水準を超えているかどうかに規定される。 2016年は7月に開催された国際フェミニスト経済学会(アイルランド)や、日本フェミニスト経済学会での研究交流をふまえ、現在初年度に国際フェミニスト経済学会(ドイツ)で報告した親同居の若者の生活の質についての論文作成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は従来調査研究が重視してこなかった世帯内に包摂された若年層の生活の質を経済、ケア、権力などの観点から調査し、その実態と課題を解明することである。従来調査研究では世帯内包摂は目的のひとつでもあり、その内実は必ずしも関心を向けられて来なかったと言える。そうした観点から27年度は関連する先行調査研究の十分な検討を行い、それをふまえて28年度には予定通り研究の中心となる調査を実施した。若干の追加調査の必要性も生じたが、それも含めて予定通り実施することができた。 調査データ分析は、まず結婚家族に包摂された女性の生活の質の分析、親同居の若者の生活の質についてのジェンダー分析を行い、得られた知見についての報告を国内外の学会で進めている。今年度も新たな知見についての国際学会報告を予定している。 本研究は貧困を単に経済的剥奪ではなく生活の質の問題として定義し、世帯に包摂されているために見過ごされ勝ちな若年層男女の生活の質を解明することを目指しており、おおむね順調に成果をあげつつあると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年となる今年度は調査分析のまとめを行い、6月29日~7月1日にソンシン女子大学(韓国・ソウル)にて開催される国際フェミニスト経済学会で特別セッションへの参加および研究報告、また8月30日~9月2日にノヴァ・デ・リスボン大学(ポルトガル・リスボン)にて開催されるヨーロッパ日本学会でパネル研究報告を予定している。報告準備と併せて研究成果の出版準備を進める。 世帯内包摂の内実を多角的に検討し、「絆」の質を問う分析・考察を行う。分析考察の分担の概略は次のとおりである。伊田:女性の不可視性と世帯内分析の必要性、ケイパビティ・アプローチの検討、若年層の世帯内ケアをめぐる依存関係のジェンダー分析。山田:経済学における幸福研究の再検討、若年層の幸福度をめぐる要因分析。熊安:自尊感情に着目した世帯内依存および権力関係分析。中原:調査データの全般的集計、暴力の怖れに着目した世帯内依存および権力関係分析。木村:学歴に着目した若年層の生活の質の分析。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目にあたる28年度は、本研究のメインとなるオンライン調査を実施するためにできるだけ予算執行を今年度に集中させた結果、若干の繰越金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度となる29年度は研究成果のまとめや発表の機会が当初予定より増えているため、旅費や英文校閲費等が当初予定より膨らむ見通しである。
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