本年度は、韓国における結婚移住女性による政治的主体形成の中で、とくに選挙を通じた政治参加に関し、地方における状況を把握するために現地調査を行った。具体的には近年蔚山市で区議員となった結婚移住女性を対象とする調査である。過去に比例代表で落選した際にインタビューを行っており、今回の調査では、その後の繰り上げによる議員生活、および政権交代からの影響を探るためインタビューを実施した。 これまで韓国で誕生した結婚移住女性議員は、政党からのアクセスを受けて比例代表候補となった経緯で共通している。今回のケースも同様であり、多文化家族支援センターへの政党からの打診が契機となり、長年センターで活動していた、結婚移民背景を持つ韓国籍女性が地域政治に関わるようになった。地方では結婚移住女性と地域社会の結節点として多文化家族支援センターが果たす役割は大きく、民間による多様な活動が展開されている大都市とは事情が異なる。議員として地域の利害関心を代表し、組織団体と交渉し、国際結婚家庭に関する政策に直接関与することが、結婚移住女性の政治的主体の形成という意味で重要なことはいうまでもない。 現地調査の実施が年度末となったため、データの本格的な分析整理と成果発表は今後の課題である。地方在住の移民による政治活動がもともと少なく、本研究でも蔚山のケースしか調査できなかったが、ソウル首都圏での事例への偏向を多少は修正できたと考える。本調査を足掛かりに、地方での移住女性による多様な活動の展開について今後も考察を深めていきたい。
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