研究実績の概要 |
1970年代から1980年代の西ドイツの家族政策をめぐる議論の中で、母親に代わる育児の担い手として、保育ママや保育所、さらに父親がクローズアップされるようになった。育児の担い手としてのあらたな父親像(「新しい父親」)が浮上した背景として、「上から」の働きかけばかりではなく、一部の男性たちの「男らしさ」の規範/男性性の変化を否定することはできない。しかし連邦レベルの政治的動きだけではなく、国内の州や自治体における独自の動き、とりわけ民間福祉団体や当事者たちの自助的な活動がこの変化に与えた影響について日本では研究蓄積がない。そこで本研究では、育児をめぐる市民たちの自助的な組織化と「男らしさ」の規範/男性性の変化や葛藤を捉える格好の「場」として、父親たちの自助組織を取り上げ、その成立過程、組織の構造と具体的な活動を分析することで、新しい公共性の可能性と限界について考察検討し、同種の課題を抱える日本社会の知見としたい。 初年度は春から夏にかけて当該テーマをめぐる最新の研究状況を確認するとともに、ドイツの社会学者ミヒャエル・モイザーの、実証的な男性性研究(職場、スポーツ、家族がフィールド)をサーヴェイした。「男性性」概念を歴史研究の分析枠組みとして堪えるように精緻化するためのベースとなる作業であるが、他の研究や学務との兼ね合いで中々時間を取れず、思うように進展しなかった。今年も地道に研究のサーベイをしつつ、インタビュー調査の準備を進め進めたい。今年度はこの研究の背景となる1970年代から1980年代の西ドイツの家族政策をめぐる議論に関する以下の研究論文を発表した。 【業績】 石井香江「育児をめぐるポリティクス――西ドイツの「新しい家族政策」構想のゆくえ」『歴史のなかの社会国家――20世紀ドイツの経験』(単著論文, 山川出版社 2016年)、189-222頁。
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