1970年代から1980年代の西ドイツの家族政策をめぐる議論の中で、母親に代わる育児の担い手として、保育ママや保育所、さらに父親がクローズアップされるようになった。育児の担い手としてのあらたな父親像(「新しい父親」)が浮上した背景として、「上から」の働きかけばかりではなく、一部の男性たちの「男らしさ」の規範/男性性の変化を否定することはできない。しかし連邦レベルの政治的動きだけではなく、国内の州や自治体における独自の動き、とりわけ民間福祉団体や当事者たちの自助的な活動がこの変化に与えた影響について日本では研究蓄積がない。そこで本研究では、育児をめぐる市民たちの自助的な組織化と「男らしさ」の規範/男性性の変化や葛藤を捉える格好の「場」として、父親たちの自助組織を取り上げ、その成立過程、組織の構造と具体的な活動を分析することで、新しい公共性の可能性と限界について考察検討し、同種の課題を抱える日本社会の知見としたい。 2016年度は2015年度までに行った研究の英語論文を学部の紀要に投稿し、関連する文献の読解と整理に終わり、関係者のインタビュー調査をすることができなかった。父親組織の機関誌の言説分析に取り掛かり、注目するテーマを絞り込み始めたが、本格的なインタビュー調査、調査結果の報告書の作成と、関連する研究会の開催は2017年度後半の課題となる。
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