本研究は、郷土食/郷土料理と国家の政策が結びついた戦時期をはさんで、1920年代から1980年頃までに、郷土食/郷土料理がマスメディアにおいてどのように表象されていったのかを、主にジェンダーの観点から明らかにした。 主な資料としたのは、1920年以降1980年までに発行された郷土食/郷土料理にかかわる書籍、新聞、婦人雑誌である。その結果、次のようなことが明らかになった。(1)郷土食/郷土料理にかかわる言説は1940年頃に大きく転換しており、代用食・節米食としての「郷土食」が戦時下の政策とかかわって研究・提唱されていった。(2)先行研究においては、戦時期の「郷土食」への注目以前に、主婦役割とかかわるものとして郷土食/郷土料理は捉えられていなかったとされてきたが、1940年発行の全国高等女学校長協会編輯部編『全日本郷土料理─各地自慢料理集』には、各地の「名物料理」「自慢料理」が集められており、代用食としての「郷土食」とは違う「郷土料理」が提唱されていた。(3)さらに大衆化した婦人雑誌『主婦之友』(1917年創刊)、『婦人倶楽部』(1920年創刊)の郷土食/郷土料理にかかわる記事をみていくと、1920年代から30年代にすでに読者に向けた「名物料理」等の料理レシピが掲載されており、主婦が「家庭料理」に郷土食/郷土料理をとりいれることが想定されていたといえる。つまり「郷土食」への政策的な注目以前、1920年代から30年代に、郷土食/郷土料理はすでにジェンダー化していたといえる。(4)一方で、婦人雑誌において、ジェンダー化した郷土食/郷土料理の「伝統」が強調されていくのは1960年代以降であり、この詳細については、論文として発表する準備を進めている。
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