平成30年度は、最終年度にあたり、知見を補強するため資料調査と情報収集を引き続き行い、また分析に際しては、問題を相対化して捉えることにつとめた。主な調査対象は、少女雑誌『少女の友』(實業之日本社)『少女世界』(博文館)である。ただし、隣接領域の状況を認識することが、少女文化の特徴を理解するために必要である。そこで、少年雑誌『日本少年』(實業之日本社)や『少年世界』(博文館)、児童雑誌『赤い鳥』(赤い鳥社)、加えて、文学、美術といった芸術領域、また教育という社会制度の動向の把握につとめた。さらに、本研究の学術的意義を問ううえで、コンテンポラリー文化の動向を捉えることが有益である。そこで、現代社会における「かわいい」や少女文化について、そしてそれらがどのように価値づけられ、語られているのかにも目を配った。解釈にあたっては、「かわいい」がどのように語られているのかを問うのはもちろん、「かわいい」に含まれないとされたのは、どのような事象なのか、またそれがどのように扱われたのかに注目した。「かわいい」に含むことのできない「逸脱」という現象を追うことで、「かわいい」が「規範」として純化していく様相を浮き彫りにした。すなわち、「愛の客体」という「少女」に望まれるジェンダー役割と、「かわいい」は整合性を有するものであった。本研究を進める過程で、新たな問題意識を抱くことになった。「少女」たちは、受動的なジェンダー規範からの越境を、願わなかったのかという疑問である。少女雑誌『少女の友』(實業之日本社)に描かれた、異性装を分析することで、この学術的問いを明らかにすること、これが今後取り組むべき発展的な課題となっている。
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