研究課題/領域番号 |
15K01940
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小宮 正安 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 教授 (80396548)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 観光学 / 文化史 / オーストリア / ハプスブルク家 / 西洋史 / 社会史 |
研究実績の概要 |
観光立国であるオーストリアにおいて、ハプスブルク家およびいわゆる「ハプスブルク帝国」の文化遺産は、重要な観光資源である。またそれと相互関係にある「ハプスブルク・イメージ」は、同国における観光事業展開の上で不可欠の要素となっている。だが共和制を敷く同国においては、殊政治面に関し、帝政時代を象徴するハプスブルク家に対する批判的姿勢が強く押し出されてきたのも事実である。 本研究では、特にオーストリア共和国の成立以降に焦点を当てつつ、オーストリアが観光立国として歩む中でいかに「ハプスブルク・イメージ」が育まれ、それがいかなる方法で実際の場へ用いられたのかという過程を文化史的アプローチから検証し、過去の支配者の遺産を活用した我が国のツーリズムに対する応用性の検討と提言をおこなうことを目的としつつ、1年目となる平成27年度の研究を遂行した。 具体的には、帝政末期ならびに共和制が誕生して以降のオーストリアにおける「ハプスブルク・イメージ」の歴史を俯瞰し、A)過去の為政者の文化遺産を用いた国家ならびに地域の観光政策の方法、B)政治と観光の相互関係について、文化史というアプローチからそれらをいかに分析できるかを多角的に検討した。時代的には、1)帝政末期から第一共和国初期、2)1920年代から30年代にかけてのマス・ツーリズムの萌芽期、3)ナチス・ドイツ占領下・四カ国統治下、4)1955年に主権を復活して以降の第二共和国期、5)EU加盟以降のtつの時代に区分けをおこなった上で、それぞれの時代に見られるトピックに関して詳細な調査を重ねる。当然このテーマに関わる資料はオーストリアに数多く存在しているため、現地と連絡をとり、また現地における文献収集や聞き取り調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハプスブルク家の遺産が数多く残され、その多くが観光資源として活用されているウィーンのウィーン博物館(旧ウィーン市立歴史博物館)を調査のメイン・フィールドとして当初想定していたが、コーパスがきわめて大きなこと、また予定していた担当者の異動等が起きたため、1年目の調査場所として、これまでも科学研究補助金による研究を通じて密接なコンタクトをとってきたウィーン楽友協会資料館を選定し、館長をのオットー・ビーバ博士や副館長のイングリード・フックス史の下、文化史的・社会史的な意味を具えた資料の調査・分析にあたることができた。 また、「オーストリア観光」という新たな視点から、元々ハプスブルク家とは不即不離の関係にあったザルツブルクにおいて、当地のモーツァルテウム大学のミヒャエル・マルキエヴィッツ教授の助言の下、さらなる複眼的見地から資料や情報の収集を遂行した。 さらに国内においては、広くオーストリア、ならびに「ハプスブルク・イメージ」に関する社会史、政治史、文化史関係の文献を収集した。とりわけ、1996年以降我が国で上演されたウィーン・ミュージカルの二大ヒット作である『エリザベート』と『モーツァルト』に着目し、そこから育まれた日本独自の「ハプスブルク・イメージ」とオースリア観光の実態の解明を進めた。 このように、収集した資料・文献が当初の予想以上に膨大になったため、購入予定の最新機能搭載のモバイル・パソコンのかわりに、急遽資料整理のための製本機を購入した他、現地で入手した資料を速やかに電子処理するためのブルーレイドライブ等の購入を通じ、収集済資料の迅速かつシステマティックな電子テキスト化への環境を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降は、平成27年度の調査を継続しつつ、オーストリアにおけるハプスブルク家ゆかりの代表的な都市であるウィーンとインスブルックを具体的な事例の中心に据えながら、観光政策を通じて浮かび上がるハプスブルク・イメージの変遷、ならびにそのようなイメージに基づいて作られる各都市のイメージが「観光立国オーストリア」にいかなる形で反映されていったのか、という問題についての詳細な分析をおこなう。 この作業においては、いくつかのトピックを選定し、個々の事象を観察し、オーストリアが国内外に対して観光立国としての姿を示してゆくにあたって「ハプスブルク・イメージ」がいかなる意味を持っていたかを探りつつ、平成29年度には包括的な結果に至ることを目指す。調査にあたっては、平成27年度に引き続き、ウィーン市立歴史博物館をはじめとする機関で資料収集をおこないながら、それらの資料に対して詳細な検討を加えてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張費用において当初の予定とは異なる額になったこと、また物品購入において資料整理のためまた資料収集に関して当初の予定と異なる購入がおこなわれたことから、3000円弱の次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
資料購入のために用いる予定である。
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