本研究は,2000年代初頭から推進されている国有林野の「協働型管理」における多様なパートナーシップ形成を,特にツーリズムの活用および創出の点から調査し,これらが地域づくりや自然資源管理にどのような効果および課題をもたらしているのかを明らかにすることを目的としている。今年度は,主として木曽地域・裏木曽地域国有林における「木曽悠久の森」の取り組みについて,関係者へのヒアリング調査を行った。 「木曽悠久の森」は,天然木曽ヒノキ林等温帯性針葉樹林の保存・復元を目的として設定された。指定された区域は約1万6000haである。保存・復元の取り組みに際しては,木曽地方の森と人との歴史的な関わりについて十分に考慮する必要性から,「三層構造」のゾーニングが採用され,天然林である箇所を除いては,コア地域であっても,持続性に配慮しつつ一定の木材生産活動が可能な仕組みとなっている。今回の措置で伐採可能な天然林の蓄積は従前から約2割減少することになり,地元からは業界全体の「死活問題」であるとの懸念が表明されつつも,天然林資源の保存・復元といった取り組み自体の意義については肯定的である。木曽谷の重要な観光拠点となっている赤沢自然休養林は,その全域がコア区域に含まれているが,地元からの強い要望もあり,従前の利用がほぼ認められる予定である。プロジェクトの趣旨を勘案すれば,従来よりも生態系保全に配慮した利用管理体制の構築が必要であるが,ヒノキ美林の散策を中心とするツーリズムの魅力を増し,質の向上につながるだろう。本取り組みの財源については,国有林当局や地元自治体等によってできる限り予算化するのは当然だが,寄附やボランタリーな協力を長期継続して募る仕組みを考えることも重要だろう。こうした点でも,「木曽悠久の森」と地元住民および社会との接点として,赤沢自然休養林等レクリエーションの森の存在は極めて重要である。
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