研究実績の概要 |
本研究では,観光地を訪れる旅行者数とその属性をより正確に予測する仕組みを構築するための実証的な調査研究を行う。従来,こうした需要予測は,主に過去の実績や経験則に基づいて行われてきたが,以下に挙げる問題点が未解決の状態にあり,ビジネス的実用には不向きであった。 1観光客の(年齢,性別,居住地などの)属性ごとに把握することが難しい。 2予測の精度が,(流行や自然災害等の)突発的な変動要因の影響によって損なわれる。 3新規開業施設など過去の実績のない場合も,訪問者数の正確な予測はほぼ困難である。 今日では,地域活性化のための様々な集客イベントが企画・実行されている。新たに立ち上げられるイベントも少なくない。とはいえ,それがどの程度の集客効果を発揮し,どのような人々がやってくるのかは,実際に蓋を開けてみなければわからない。近年,Googleトレンド(特定キーワードの検索件数の変化を参照できるサービス)やNTTドコモのモバイル空間統計(携帯電話ネットワークを活用して作成される人口の統計情報)などのICTサービスを活用することによって,新規イベントの集客数の予測や検証を行うことができる。これらを既存のアクセス解析と併用することにより,従来,困難であった集客数・旅行者属性の正確な予測が,いまや可能になりつつある。 当研究では,検索エンジンにおけるキーワード検索ボリュームの変化と観光地の訪問者数・宿泊者数のデータとを関連づけて統計的処理を行い,観光需要予測システムの構築に向けた実証的調査を実施する。当該年度においては,NTTドコモ社のモバイル空間統計調査から得た追加データを活用し,石川県および富山市における訪問者の行動分析を引き続き実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年次は,まず観光分野におけるビッグデータおよび携帯電話ユーザーの位置情報の活用に関する先行研究をサーベイした。さらに調査対象地域(石川県)の観光情報を発信するWebサイトを立ち上げ,アクセス解析を開始した。NTTドコモ社の提供するモバイル空間統計調査は,本研究において中核的な位置づけを占めているが,予定通り初年度内に契約およびデータ収集を完了し,得られた知見を国際ジャーナルに投稿した(採録済み)。 第2年次は,初年度に試験的に実施したモバイル空間統計調査の結果を解析・検討し,携帯電話の位置情報データを活用して北陸新幹線の開業効果を測定するなどした。得られた知見は,国内外の学会やジャーナルで発表した。 第3年次は,初年度に実施したモバイル空間統計調査のデータ解析・検討に加えて,旅行者の観光情報探索に関するモデルに基づいた調査計画を作成・実行した。さらに追加的なモバイル空間統計調査を実施し,観光需要予測システム構築に向けて得られた結果を総括的に検討した。結果的に事業期間を1年間延長することとなったが,今後予定している研究成果の発表を最終報告書に盛り込むことを企図した変更であり,進捗状況には問題はないと考える。
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