研究課題/領域番号 |
15K01977
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
篠澤 和久 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (20211956)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 論理的思考 / 批判的思考 / 実践的推論 / ICT活用 |
研究実績の概要 |
平成27年度の主要な実績は、①日独ワークショップでの口頭発表、②雑誌論文、③初等教育への論理的思考の具体的導入、の3点である。①②が理論面での、③が実践面での成果となる。 ①は、ドイツのオルデンブルク大学で開催された日独ワークショップ Genealogie des kritischen Subjekts における口頭発表である。医学・情報系を含む総合大学としてのオルデンブルク大学は、前身が教員養成大学だったこともあり、教育面の施設と制度が充実している。欧米系の論理教育のあり方を調査するうえで、有益であった。ワークショップでは、アリストテレスの倫理学・政治学に見出される発達心理学的な観点から、自己形成の理解をめぐる言説とその論理について発表した。同大学の社会学系スタッフとの討議によって、論理的思考と自己形成との関係を再考する手がかりを得ることができた。 ②は、①を踏まえて、アリストテレスの無抑制論を考察した論文である。解釈上の難題にもなっている無抑制論は、最新の認知科学が指摘するように、教育問題にも密接に連関するテーマである。論文では、昨今新たな注目を集めるアリストテレスの習慣概念の視点から、発達心理学と実践的推論との関係について今日的な意義を取り出した。 ③は、①②の理論的視点を初等中等教育の現場に応用した実践的成果である。所属機関の情報リテラシー教育プログラムのスタッフと仙台市内の小学校の協力を得て、シンキングツールや実物投影機などを常時活用できる環境を整備したうえで、学習者が通常の単元学習において論理的思考を積極的に活用する基礎的な方法を提案した。教科横断的な視点も取り込みながら、学習者の理解を高める論理的思考の活用方法を具体的に構築していくことは、これからの教育現場における喫緊の課題のひとつである。その意味で、③の成果は平成28年度以降の課題遂行の基点となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載したように、ICT活用による論理的思考について、理論と実践の両面に関して初年度の計画をほぼ実施できたと評価できる。課題として残った点は、以下の2点である。 (1)ICT活用型の論理的思考育成が研究課題であるが、協力を得られた小学校も含めて、仙台市内の教育現場におけるICT環境整備の遅れは、いわゆるモデル校と比較して、予想以上であった。このため、本科研費交付額による整備も限定的なものに留まった。タブレット型PCの導入やWiFi環境の整備など、仙台市教育委員会とも協議しながら、進める必要がある。 (2)アクティブラーニングや反転学習についての調査および実施が、申請時に協力を予定していた教員が異動したため、実施できなかった。平成28年度以降に修正したい。
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今後の研究の推進方策 |
前項「現在までの進捗状況」に記載した(1)(2)の遅滞を、交付額の可能な範囲で取り戻しながら、申請時の計画に着手する予定である。主軸になるのは、以下の3点である。 (1)初等中等教育の現場にとって抽象度の高い論理的思考の枠組みを具体的に適用可能とする教育学的知見について調査を推し進め、理論面での強化を図る。 (2)平成27年度の段階で、教科横断的な取り組みへの手がかりも得られたので、今後は、現行のカリキュラムに即するかたちで教科単元間のつながりを明らかにしていく。前項(1)の課題とともに、申請時の組織体制として記載した「情報活用型授業を深める会」「デジタル教材勉強会」等において、情報提供および交換を実施しながら、初等中等教育における対話型論理的思考の実践のモデル化に目指したい。 (3)現在の協力校が、平成29年度の視聴覚教育研究校になる予定なので、申請時に提示した所属機関スタッフ・教育委員会の担当部署・教員研究会(勉強会)等の協力体制をさらに密にしながら、論理教育の効果的な浸透を図る。
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