研究課題/領域番号 |
15K01978
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村上 祐子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (80435502)
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研究分担者 |
辰己 丈夫 放送大学, 教養学部, 教授 (70257195)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工知能 / 情報教育 / 行為論理 |
研究実績の概要 |
2016年度は前年度の結論「シンギュラリティはすでに到来している」を精密化し、シンギュラリティ問題は社会受容にあるという仮説をたてた.例えば人工知能が囲碁や将棋で人間の能力を上回るとともに人間の手を借りずに強化学習で強くなっていく(局所的シンギュラリティ)状況はすでに現実である.そのうえで、このような状況に直面した人間のコミュニティの対応手法や次世代の育成における計算機の利用についての考察を進めた. 道徳的人工知能開発に向けて用いられるビッグデータ+帰納的・統計的手法には問題があり、道徳概念を表現する語彙が追加された演繹的論理体系を用いる必要性が判明した.現実が道徳的理想世界ではない以上、人間の挙動・判断を範として帰納的推論を行っても道徳的人工知能に到達することは不可能であるからである.とくに問題となるのは異なる価値観が衝突するケースであるため、次年度に向けて道徳的ジレンマを多層価値観論理モデルによる分析と具体的な道徳的ジレンマの教育方法の検討を進めた. 一方で人工知能単体が法人格付与等の社会合意の上で問題発生時に責任を負う可能性を開くべきであるという主張を研究代表者は展開している.この意見は、情報の哲学者や法哲学者の一部と一致する一方で、法曹実務者や法哲学者の主流には強い反対意見が見られる.後者の意見が主流である内は社会実装にはいたらないという観察を得た.現実論においては、人間の個別の活動には人間の複数の機能が含まれており、人工知能は個別の機能の代替を進めていくのであって、人間総体としての置き換えは開発の方向性として誤っていることとなるが、この点については人工知能研究者・開発者との議論を今後進めていくこととなる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
人工知能の開発速度が当初予想を上回っていることもあり、新たな道徳的・倫理的・哲学的課題が次々に明らかになっており、研究は最新の状況を踏まえながらさらにその先を読む方針で進めている. 2016年度の成果は査読付き論文3本、国際招待講演3件、国内招待講演5件、学会発表12件を通して公表した.また2017年度に向けて国際学会2件のプログラム委員・座長が決定し、国際学会発表1件も査読中である.
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今後の研究の推進方策 |
人工知能による犯罪予測システムがすでに導入されている現実に加えて、犯罪性が予測される時点での逮捕が法制化されようとしており、人工知能を含む社会システムに道徳的判断、とりわけ価値観の変更・過誤による冤罪への説明責任を実装する方法論を探究する. この際に重要なのが、人間が人工知能と共存するための人間対象の教育カリキュラムと人工知能の推論機構及び訓練データの設計である.この点について、最終年度には(1)道徳的ジレンマのデータベース化に向けた予備調査、(2)所属コミュニティによる道徳的ジレンマの「難易度」の予備調査(サルトルの実存や出生前検査のジレンマについて、日本の通常の高校生や大学生に考察させても身近な問題として認識できないが、社会的責任を担う大人であればより自分に引き付けて考えることができる等)、(3)多層価値観論理モデルにもとづく推論体系の開発と分析(4)情報教育の現場における道徳的ジレンマの取り扱いに関する問題の分析 を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会発表Yuko Murakami, Takeo Tatsumi, Takushi Otani, Yasunari Harada, Ethics of Information Education for Living with Robotsが 2017年6月5-8日(予定)ETHICOMP 2017での採択となったため.
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次年度使用額の使用計画 |
6月4-10日のイタリア出張での支出を予定している.
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