平成29年度には社会的にもシンギュラリティ論の問題が受容される方向に進んだため、研究成果としてシンギュラリティ論そのものの問題点を指摘するフェーズは過ぎたと判断することとなった.実際、シンギュラリティという事態が実現するかどうかが問題であるにもかかわらず、人工知能の脅威を強調することで、脅迫ビジネスを進めていたという妥当な指摘が各組織に向けられるにいたり、人工知能の脅威が何らかの形で存在するにしても、社会的にコントロールする方法を探るべきだという論調が主流となり、当研究課題の社会的インパクトは十分であったと判断できる. 学術・実務・教育というそれぞれの現場における人工知能の利用についての議論を進めた.学術の現場に関しては、数学・天文学・地球惑星科学の研究者と人工知能の学術利用の可能性と研究者の労働代替のリスクについて議論を行った.実務では、法人格を人工知能に付与する社会的要請に対し、責任分担が十全に行えるのか検討を加えた.さらにトロッコ問題が代表的な例と挙げられる道徳的ジレンマの議論は二つの選択肢に限るという点で問題設定そのものに問題があり、選択肢および損害・利得についてさらに精緻な設定を行うべきだという結論に達した.教育現場における人工知能及び情報システムの利用に関しては、研究・開発の方向性と現場のニーズのずれについてケーススタディを行った.成果発表については、2018年9月のETHICOMP2018での講演(採択済)を予定している.
|