研究課題/領域番号 |
15K01980
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 透 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60222014)
|
研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
|
キーワード | 感覚質 / 知覚論 / デカルト / 機械論哲学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、外界から感覚質を剥奪するデカルト的な機械論的自然観および知覚論の難点を克服し、自然界に感覚質を保持しつつ、自然科学的な知覚研究と整合する新たな知覚論を構築することにある。平成27年度の研究の力点は、まずこのような感覚質と知覚図式を巡る問題が近代においてどのようにして発生したかというその歴史的経緯を明確にし、かつ現代における各種の質的知覚論の試みを、その観点から照射してそれらの有効性と問題点を明らかにすることにあった。 そのためには古代から中世に至る知覚論の詳細な検討が必要になるが、古代中世哲学の研究者による興味深い研究成果を参照することができた。基本となるのはアリストテレスが『形而上学』や『生成消滅論』で展開している質料形相論と、キリスト教信仰上の基盤としての『実体変化』に関する教義であり、それらによって、中世までは外界の事物が持つ性質は、確かな存在を持つものと考えられていた。しかし、そうした自然観、知覚論から17世紀になって突如として先の自然観、知覚論が誕生したわけではなく、17世紀の粒子論哲学の一部を完全に先取りするような主張がすでに14世紀になされていたことをパスナウ等の研究者がすでに指摘している。 本年度の研究では、そうした優れた先行研究を参照しつつも、しかし、それだけではデカルト的な、感覚質を外界から剥奪し、その発生を感覚主体に位置付けるような知覚論は生まれないことを確認し、また近代におけるそうした知覚図式の主張者たちが、おそらく触覚の役割を重視することによってこの知覚図式を正当化しようとしていたこと、にもかかわらずこの知覚図式はやはり重大な矛盾を含むこと等を明確にし得たと考えている。 しかし、この研究の採択が後期にずれこんだこともあって時間的制約があり、この視点から現代における質的知覚論の候補を再検証するという作業は、28年度以降に残された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成27年度は、哲学史的検討と、そこで得られた視点から現代の質的知覚論を検証することに力点を置いていたが、後半部分には立ち入ることができなかった。その主たる理由は、本研究課題の採択が後期にずれこんだため、研究の本格的開始が遅れたことにある。とはいえ、研究者自身は当の課題に関心を持ち続けており、採択不採択にかかわらず研究を進めていた部分もあったので、結果として、上記の遅れはあるものの、おおむね順調に進展したと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、まず27年度で手を付けることができなかった課題すなわち、歴史的経緯を踏まえた上で、現代の質的知覚論の各種についてその有効性を再検討するという課題を主として遂行する。そこには、フッサールの知覚論、ベルクソンの知覚論、日本の大森荘蔵の「重ね描き論」などが含まれることになる。さらに可能な限り次のステップ、すなわちそのような再検討を通して浮上する問題点を克服できるような新たな質的知覚図式の構築へと向かう。一定の成果が得られた場合には、学会等での報告を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる理由は、本研究課題の採択が10月にずれこんだことにある。平成27年度当初よりすでに年間を通じての教育、研究計画がなされていたところ、10月になって本研究課題が採択されたため、この課題の遂行を研究者の研究計画全体にただちに完全な形で加えることには困難があった。この研究課題そのものについては関心を持ち続けていたため、研究自体は独自の形で継続していたとはいえ、経費を使用しての本格的研究は、開始が半年遅れたことになり、それが最後まで影響を与えた。
|
次年度使用額の使用計画 |
半年の研究遂行の遅れを取り戻すべく、平成28年度早々にも必要設備、書籍等の購入をすみやかに進め、また調査旅行、発表旅行等の計画も順次すみやかに行うこととする。
|