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2016 年度 実施状況報告書

質的知覚論の再構築

研究課題

研究課題/領域番号 15K01980
研究機関東北大学

研究代表者

佐藤 透  東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60222014)

研究期間 (年度) 2015-10-21 – 2018-03-31
キーワード知覚 / 質的性質 / 知覚因果説 / 相関主義 / 副詞主義 / 横描写と縦描写
研究実績の概要

本研究は、自然界に物理的性質のみをみとめ、色や音といった感覚的性質を主観のうちにのみ位置付ける近代科学以降の自然観が持つ難点を克服し、自然科学の成果を尊重しつつも自然界に質的性質を保存するような知覚論を構築することを目的としていた。3年計画のうち第2年度にあたる28年度では従来の質的知覚モデルの再検討が主となっていたが、実際にはすでに最終年度で予定されていた新しい知覚図式の構築に踏み込み、その成果を研究ノートという形で公刊することができた。
デカルト等が主張した近代的な知覚図式は、外界の事物が色をもつという常識的立場に反するだけでなく、ジョージ・バークリーがいち早く指摘したように、外界に実在する対象が不可知のものとなってしまうという矛盾を含んでいた。特に色の性質を巡る問題は今日まで議論され続けており、その立場は実在論、反実在論、相関主義に分類できる。本年度まとめられた試論では、まず相関主義的副詞主義の立場をとるキリムータの議論を検討したうえで、その問題点を指摘した。それは、先の17世紀に発する知覚図式が、知覚を一種の因果的プロセスとして把握することに基づいているにもかかわらず、相関主義的副詞主義が、この問題を説明していないという点にあった。
それゆえ、この試論では、知覚の因果的プロセスに関する科学的証言を尊重しつつ、かつ外界に色などの質的性質を保証するような知覚論を構築し直すことを試みた。その際に、知覚発生のプロセスには二種類の描写、すなわち筆者が横描写と名付けた客観的描写と、縦描写と名付けた主観的描写、が可能であるが、知覚発生の説明にはその両者が必要であること、そして、従来の描写は横描写を主体としたものであったが、縦描写を主体としたものに変えることによって質的自然観を再構築することが可能であることを示した。これは目指されている質的知覚論の大枠を素描したものと言える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初計画では、3年の研究期間のうち第2年度である28年度は、従来の質的知覚論の再検討を主とし、最終年度の29年度において新たな質的知覚論を構築する予定であった。しかし、新たな質的知覚論の骨子となるであろう着想が得られたため、28年度はその着想を議論として構成することに力点が置かれた結果、研究ノートという形で公刊することができた。逆に従来の質的知覚論の細部に亘る検討はやや手薄になったかもしれない。全体としては、研究の進め方に当初計画と若干異なる部分が生じたものの、順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

最終年度となる29年度の本研究課題の遂行予定は次の三つとなる。
(1)28年度に研究ノートという形で公刊された新しい質的知覚論の骨子を、さらに展開して仕上げること。特に、それが知覚プロセスの科学的研究と、人の自然な質的世界観の双方と整合することをさまざまな点から確認することが必要になるであろう。
(2)上記の新しい質的知覚論と、従来の質的知覚論の相違を、明確な形で論証し、従来の知覚論の流れの中で、上記の質的知覚論を位置付けること。
(3)予定の研究期間を終了するにあたり、達成された課題と残された問題を整理し、今後の研究へつなげること。

次年度使用額が生じた理由

初年度は10月に採用が認められたため、研究のスタートが遅れたが、第2年度目である28年度でかなり研究を進めたため、それに伴って予算執行も進んだが、初年度の残額がなお響いて29年度に持ち越す形になった。

次年度使用額の使用計画

必要書籍等の購入をすみやかに進めると同時に、調査旅行、成果発表等の旅行もすみやかに行って、遅滞なく予算を執行したい。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2017

すべて 雑誌論文 (1件)

  • [雑誌論文] 質的自然観の再構築―知覚因果説のアポリアを越えて―(研究ノート)2017

    • 著者名/発表者名
      佐藤 透
    • 雑誌名

      ヨーロッパ研究

      巻: 第12号 ページ: 65-88

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公開日: 2018-01-16  

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