2018年度は理論面と実践面において、研究期間全体を総括する成果を生み出すことができた。まず理論面では、共編著として『哲学の変換と知の越境』と題する書物を刊行し、その副題「伝統的思考法を問い直すための手引き」に示されるような、新しい知のあり方を問う共同研究をまとめることができた。これは本研究のテーマである「定言命法を実現するための技術的仮言命法の可能性」を追求した成果と理解している。この書に寄稿した研究代表者本人の論文「新たな選択肢の創出 ―二者択一的倫理学から創造的問題解決の倫理学へ―」は、カントの実践哲学や、カントの晩年における筆禍事件に対する対応の中に、定言命法を実現するための技術的仮言命法を読みとっていく試みであり、本研究の理論面における集大成と呼ぶべき成果である。 実践面においては、定言命法を実現するための技術的仮言命法の一環として2011年より続けてきている「てつがくカフェ@ふくしま」の運動が、2017年に世話人1名の引退により活動形態を変えなければならなくなった中で、世話人主導ではなく、少しずつ参加者主体の運営組織へと発展を遂げることができた。ひとこと掲示板、アフタートーク、記録作成などについて参加者の方々から次々と新しいアイディアが出され、それ自体が民主主義を実現していくための技術的仮言命法の追求過程であった。また、2018年には福島市において市民を分断する騒動「サン・チャイルド問題」(ヤノベケンジ氏の美術作品が公共空間に展示されたものの反対運動にあいほんの1ヶ月で撤去された事件)が突如発生したが、「てつがくカフェ@ふくしま」ではこの問題を3回にわたって取り上げ、賛否両論ある問題においていかに合意を形成していったらいいかについて深く語り合うことができ、これも実践面における集大成と呼ぶべき成果となった。
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