研究実績の概要 |
1. アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン(Alexander Gottlieb Baumgarten)の『形而上学』(Metaphysica, 1739 Halle. 4. Auflage, 1757)第4部「自然神学」(theologia naturalis)の「神の意志」および「神の行為」を検討した。特に、神の意志に関しては、これまでに検討してきた『形而上学』の先行するテクスト(「自然神学」全般および「神の知性」に関するテクスト)を踏まえて詳細に吟味し、その部分のテクストの本邦初訳を活字化した。「他者に対してよく行なおうとする意志規定」が「慈善」(bonitas)であるが、これがそれぞれの人格に対して釣り合いがとれているとき、正義(iustitia)がある。
2. また自然神学の議論をより正確に理解するために『形而上学』第1部「有論」第2章第1-3節のテクストも再検討し、「必然的なものと偶然的なもの」、「可変的なものと不可変的なもの」および「実在的なものと否定的なもの」についての理解を深めると同時にその部分のテクストの本邦初訳を活字化した。
3. これまでの研究で理解を深めてきたバウムガルテンにおける神の知性と意志のありかたを、本研究の最終目的であるカント哲学のより深い理解に役立てるために、まずは「知性的直観」に的を絞ってカントの思想と比較対象し、その成果を日本カント協会で発表し、さらに論文にまとめた。神の知を「単純な知解の知」、「自由な知」および「中間知」に区分したバウムガルテンに対して、カントは「神に関しては可能的なものと現実的なものとの間にはいかなる区別もない」と批判し、私たち人間の表象のあり方の特質を明らかにしてゆく。
|