研究課題/領域番号 |
15K01985
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
川本 隆史 国際基督教大学, 教養学部, 特任教授 (40137758)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ケア / 社会倫理学 / 脱集計化 / 記憶の修復 |
研究実績の概要 |
発達心理学者キャロル・ギリガンの問題作『もうひとつの声』が活写した「ケアの倫理」は、「正義の倫理」への対抗軸として打ち出されたものだが、本書の刊行を契機に始まった「ケア対正義」の論争においては、個々のニーズへの即応というアド・ホックな側面が強調される余り、「ケアの倫理」の方法論の究明がいささかおろそかになったきらいがある。本研究はその不備を埋めるべく、ケアの倫理の方法論を「脱集計化」(厚生経済学者アマルティア・センの手法)と原爆被爆の当事者および二世との交流を通じてその重要性を学んだ「記憶のケア」という二つの軸に沿って練り上げようとするものである。 プロジェクトのスタートから3年目となる本年度の成果として、「記憶のケア」と「脱集計化」に関する学術論文1本と学会報告および関連するインタビュー記事と学会での指定討論(コメント)を挙げることができる。学術論文は、全埼玉私立幼稚園連合会の機関誌に寄せた講演記録「ケアの倫理とケアリングの教育」であり、学会報告は京都大学で開催された社会思想史学会セッションAにおける提題「〈戦後〉を編み直し、ヒロシマの記憶を学びほぐす」である。 さらに「記憶のケア」に関する初発の問題提起を行った小文(『思想』2004年11月号)とこれまでの歩みを振り返ったインタビュー「「記憶のケア」を織り上げる――〈脱集計化〉を縦糸、〈脱中心化〉を横糸に」を、近刊の東琢磨編『広島 忘却の記憶』(月曜社)に収めることができた。これらをもって研究成果を社会に向けて発信する態勢が整ったものと総括している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」末尾に記した論集『広島 忘却の記憶』は、ほんらい平成29(2017)年度内に上梓される予定だったのだが、諸般の事情で刊行が平成30年度にずれ込んでしまった。論集の仕上げや刊行後の合評会などの「アフターケア」の必要もあって、交付額の一部を次年度に繰り越していただいている。 「おおむね順調に進展している」を選んだゆえんである。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に上記したように、本研究課題の総括文書となる2つの作品を収めた論集『広島 忘却の記憶』の刊行後に、寄稿者および関係者と理論的な交流・相互検討の場を持とうと考えている。 なお幸いなことに、本研究課題を深化・発展させた新規の研究プロジェクト「正義と平和への社会倫理学的アプローチ(ケアの倫理との編み合わせを軸として)」が、科学研究費助成事業の助成を受けることになった(基盤研究(C)/平成30年度~平成33年度/課題番号1 8 K 0 0 0 2 0)。 二つの科研プロジェクトをしっかりと連携させながら、研究を推進していく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の総括ともなる2つの作品を収めた論集『広島 忘却の記憶』(月曜社)は当初平成29(2017)年度内の刊行を目指して編集を進めていたのだが、索引や付録をつける作業に思いのほか手間どり、年度を越えることになった。 編者・寄稿者ともども満を持して世に送る論集であるので、刊行後の合評会や相互検討の機会を設ける予定である。そのための費用を計上して次年度使用を申し出て、承認していただいた。
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