研究課題/領域番号 |
15K01987
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
中野 裕考 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (40587474)
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研究分担者 |
浜野 喬士 早稲田大学, 文学学術院, 招聘研究員 (20608434) [辞退]
山蔦 真之 名古屋商科大学, コミュニケーション学部, 講師 (50749778)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超感性的なもの |
研究実績の概要 |
山蔦真之の統括のもと、カント批判哲学の体系性を倫理学、実践哲学の観点から分析、考察した。山蔦は道徳性と美および崇高との関係を考察し、従来は道徳性に密接に連関していると考えられていた崇高が、実はそれほど強い関係をもっていないことを明らかにした。そこで山蔦は、美が善の象徴であるというテーゼに注目し、崇高よりも美の方が道徳性と密接に関連していると考えた。その際に美と善の関連は、超感性的なものへの志向という意味で理解され、しかもこの関連には真もまた加わってくる。つまり超感性的なものという理念において、真、善、美という基本理念が統一されたものとして理解されることになる。中野はこれに関して、中世以来の超越概念「一」「真」「善」が、カント批判哲学の体系的連関を読み解くカギになっている可能性を探った。ここでもやはり超感性的なものの理念へと、真と善がまとめられつつ、美は善の象徴として、真と善の中間的な位置を与えられる。このような真、善、美の関係は、実は中世以来のアリストテレス主義の流れに属する哲学伝統に忠実な図式化だったことが明らかになった。他方、浜野はカント前批判期から『判断力批判』に至るまでの「天才」概念の変遷を吟味した。これによって、この概念の内容が美術産出の技術に定まる以前には、数学や哲学などの学問の産出といった文脈でも使われていたことが明らかになった。さらに超感性的なものという理念のもとに理性の法則への服従としての理論的思考も含めた広義の自由がまとめられるようになるにつれて、天才は無法則性として理論理性からも実践理性からも締め出されていくことになった。天才概念の指示範囲の限定は、超感性的なものの理念のもとでの理論理性と実践理性の統一把握の進展と表裏の関係にあったことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中野、山蔦、浜野の三人で研究を分担し、平成27年度、28年度、29年度をそれぞれ統括することが予定されていた。平成28年度は山蔦の統括のもと、批判哲学の体系性を実践哲学という切り口から分析された。浜野が研究分担者資格を失ったため、研究協力者という資格での参加になってしまうという予期せぬ問題が生じたとはいえ、この問題は中野、山蔦のカバーによって重大な遅れにはつながらなかった。また平成29年度は浜野が研究分担者に復活する見込みであり、結果としては当初の予定通り順調に研究を進めることができそうである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は浜野が研究分担者に復帰し、浜野の統括の下で、主に『判断力批判』の観点から批判哲学の体系性を分析する。28年度にすでに、中野、山蔦、浜野がそれぞれの分析結果を発表していたが、29年度には前年度の発表を修正、発展させつつ完成させることを目指す。カント研究会等の各種研究会の場を利用し、広く専門諸氏の意見を受け、研究成果を発表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
注文していた書籍の到着が会計年度内に間に合わず、年度中の使用ができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
注文していた書籍はすでに到着しており、速やかに会計処理をする。
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