本研究は具体的に3点の内容において遂行された。 第一に、西村誠氏と申請者を中心にのべ14人のメンバーでほぼ月に一度のペースで午前、午後の部に分かれて「美学研究会」を開催し、アドルノの『否定弁証法』『美の理論』『美学講義(1958/59)』を原典講読しつつディスカッションした。最終年度も、4、6(2回)、7(2回)、9(2回)、11、12、1、2月に合計11回の研究会を行なった。本年度は、「アドルノの美学」を共通テーマとする論文集を参加メンバーにより上梓することが当初より最終目標として設定されていたので、6月から9月にかけては、毎月二度の研究会を行い、各自が論文草稿を持ち寄って発表し、相互批判にかけた。その甲斐あって、10月には書籍原稿を完成することができた。 第二の柱は、ベルリンのヴァルター・ベンヤミン・アルヒーフに所蔵され、訪問者には閲覧と筆写が許されるアドルノの遺稿の内、1961/62年の『美学講義』を閲読の上で筆写する作業を継続することだったが、申請者は最終年度も8月にベルリンに滞在し、4週間にわたってこの作業を継続した。この講義は、1961年の夏学期と1961/62年の冬学期に週二回のペースで合計約30回にわたって行なわれたものだが、今回の滞在で、冬学期の11月16日、21日、23日、28日、30日、12月5日、7日、12日の講義草稿を筆写することができた。 第三に、本研究では、アドルノ美学の研究において興味深い実績を示しておられる若手研究者をわれわれの研究会にお招きし、共同研究の場を持つという課題を設定したが、近年この分野でめざましい研究成果を公表しておられるゲオルク・ベルトラム教授(ベルリン自由大学)をお招きし、「アドルノの〈美の理論〉と芸術の社会的効力の問題」と題する講演会(3月16日)と、「アドルノの美学と現代芸術」と題するコロキウム(3月19日)を開催した。
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