最終年度となる2018年度においては、これまでの研究蓄積を踏まえた上で特に物理主義という存在論的・形而上学的立場に焦点化し、その擁護可能性を形而上学的実在論タイプとデフレ主義タイプの二つに場合分けした上で検討を進めた。その結果、物理主義については奇跡論法に代表される科学的実在論擁護論証を適用することができないため、少なくとも形而上学的実在論タイプの主張としては維持することが極めて困難である、と結論するに至った。この点については、2019年度に一橋大学哲学・社会思想学会@一橋大学(6月1日)、ガブリエル・シンポジウム(仮)@ボン大学(6月4、5日)の両学会で異なる強調点で報告を行う予定であり、またその後、英語で編集される論文集の一部として出版が決まっている。
研究機関全体の成果としては、現在投稿中のものも含め全4報の原著論文と複数の学会発表において、科学的実在論論争とメタ形而上学論争との間の平行関係や議論の援用可能性を多くの論点に関して確立できたことがまず挙げられる。また、現在もっとも有望な存在論的立場とみなされている物理主義に関しては、それが哲学的自然主義を前提とせざるをえないこと、またそのことを一つの理由として形而上学的実在論の形では主張できないことを明らかにしたことは大きな成果であり、実際、この結果を受けてさらなる発展的な研究課題が創出可能になると考えられる。例えば、現在もっとも有望な存在論的立場である物理主義についてその有力な形態と考えられていた形而上学的実在論タイプのものが阻却されたことを受けて、唯一残された形態である「デフレ主義的物理主義」についてその解明と是非評価を進める、という従来に見られなかった課題が重要なものとしてクローズアップされるに至った。また、物理主義への説得的な批判は、それとは異なる形而上学的立場の探求に対する動機付けを与えることになるはずである。
|