研究課題/領域番号 |
15K01990
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大須賀 史和 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (30302897)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ロシア哲学 / 言語哲学 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、20世紀初頭のロシアにおける言語哲学的な議論である「名の哲学」の研究、特にソ連時代初期に独自の体系的記述を目指したA.ローセフの哲学の研究を目的とし、同時代の諸外国の哲学の受容なども考慮に入れ、ローセフの構想の内実と今日における意義を検討することが課題である。 今年度は昨年度の研究を発展させ、初期ローセフの主著『名の哲学』と『論理学の対象としての音楽』について新たな視角からの検討を行った。 ローセフは言語や音楽を人間主体が操作・創作するという観点よりも、言語や音楽が成立している時に、それがどのような構成要素を内包しているかという客体主義的な観点から分析することを重視している。そのため、音という物理的現象の水準、言語や音楽が持つ形式の水準、それに関わる人間の持つ志向の水準、それが持ちうる意味などの水準といったものが重層的に言語や音楽を成立させているという捉え方になる。ここから、言語や音楽はそれを操作・創作する主観の中にしか存在しないという主観主義的な立場が批判され、言語や音楽それ自体のあり方を論じる立場が確立されると考えている。 だが、それは言語や音楽を現実化する担い手としての人間主体の存在と、その個別・具体的な意図の介在を否定するものではない。むしろ、重層的な構造を持つ言語や音楽において、主体である私は他なる世界と触れているがゆえに、その理解も可能となるというのが、ローセフの構想の主要なモチーフであることを明らかとなってきた。こうした立場からは、我々の自己の存在やそのあり方も単独で認識・構想されるのではなく、言語や音楽などの表現行為を通じた他なる世界との交渉の中にあると考えられるはずである。これは存在とコミュニケーションを表現という同一地平において捉えるユニークな哲学的立場であり、今日においても大きな意味を持ちうると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も研究遂行に必要な追加の資料調査が順調に進行したほか、これまでに収集した資料の読解と分析から新たな知見が得られつつある。それらを成果として発表することができているため、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
29年度はこれまでの研究によって明らかになってきたローセフの哲学的構成の研究とともに、その成立の背景にも検討の範囲を広げていく予定である。これまではローセフの古典学研究はドイツ哲学研究と並んで、ローセフの哲学的方法としての弁証法や主要な哲学的概念の源泉ではあるものの、正教神学や先行するロシアの哲学思想の影響と比較した場合に、彼の哲学的構想にどの程度の影響力を持ったのかという点は十分に明らかにはなっていなかった。 しかし、これまでの検討から、ローセフの構想の成立過程を考える際には、古典的ないし中世的な世界観の現代における復興、すなわちロシアにおけるルネサンスとしての側面も他に劣らぬ強い関係を持ち、それらが融合した体系の構築こそがローセフの構想の核心であったと思われる側面が見えてきている。こうした観点から、ローセフの構想をより多角的に検討する予定である。
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