研究課題/領域番号 |
15K01990
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大須賀 史和 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (30302897)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ロシア / 言語哲学 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、20世紀初頭のロシアにおける言語哲学的な議論である「名の哲学」の研究、特にソ連時代初期に独自の体系的記述を目指したA.ローセフの哲学の研究を目的とし、同時代の諸外国における哲学分野の研究成果の受容等も考慮に入れつつ、ローセフの構想の内実と今日における意義を検討することを主要課題としている。 今年度は昨年度の研究に引き続き、初期ローセフの主著『名の哲学』と『論理学の対象としての音楽』、および同時期のギリシア古典哲学研究の書である『古典古代のシンボリズムと神話学の概説』および『古典古代のコスモスと現代の学問』の分析を継続した。 それに加えて、後二書で語られている古典的なコスモスの再構築とそれによる既存の学問の刷新という構想について検討するため、今年度はベンヤミン初期の論考である「言語一般および人間の言語について」(1916)との比較検討も行った。ベンヤミンの論考が書かれた時期は、ローセフが古典学研究に取り組んでいた時期と重なるが、それが生前に公刊されることはなく、また20年代にベンヤミンがソ連を訪問した際にもローセフと面識を持ったという記録は見当たらない。それにもかかわらず、言語が主として名や神話であること、またそれが神とのコミュニケーションにおける媒体であるとされているなど、ローセフの構想ともきわめて近しいものがある。こうした言語に関する理解は旧約聖書に示された言語観に依拠していると考えられるが、ローセフの構想が単にギリシア的な世界観の再構築を目指したものではなく、聖書的な言語観をも内包する形で展開されていたことを示すものであると言える。こうした問題について、10月にロシア連邦モスクワ市において開催された国際会議で成果報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度もロシアで開催された国際会議で本研究課題に関連する成果を発表することができた。それを通じて、既存の研究成果の意義を確認することができた。また、今年度は言語学研究や神学研究の立場からローセフの業績を評価したセッションに参加することができ、実に多様な見解に触れる機会ともなった。それらを批判的に摂取することで最終年度に予定している総括的な研究報告に関するいくつかの着想を得ることもできた。こうしたことから、研究はおおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の最終年度には、これまでの研究実績を踏まえて、ローセフの「名の哲学」における言語哲学的構成の成立とそこで展開されている主要な概念構成についての総括となるような研究を提出する予定である。中心となるのはギリシア古典学研究と聖書に由来するユダヤ・キリスト教的な世界観および言語観に依拠したローセフの理論体系の検討であるが、ローセフが1930年頃までに提起した他領域の構想との関係についても言及する予定である。特に本研究計画期間中に検討した音楽の哲学解釈は客観的な哲学というローセフの構想の基本的立場の成立において重要な意味を持つ。また、これと関連して彼のバイオグラフィーを再精査し、哲学研究の背景をなす部分についてもより詳細な検討を行うことで、20世紀初頭のロシアの学術的状況の一端についても明らかにした上で、ローセフの哲学的構想の広がりと独自性を規定していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度は学部入試を所管する委員会の長としての業務を行うこととなり、当初は年度後半に予定していた海外渡航を行う時間的余裕がなくなってしまった。このため、翌年度に補足的な資料収集を行うために一部予算を繰り越すこととした。
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