研究課題/領域番号 |
15K01997
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊勢田 哲治 京都大学, 文学研究科, 准教授 (80324367)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 科学方法論 / 19世紀哲学 / 規約主義 / 社会派科学哲学 / J.S.ミル |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、19世紀後半から20世紀初頭の英、仏、独の科学哲学の知的な交流について検討を継続した。とりわけ、現代まで続く科学哲学の歴史という文脈ではあまり言及されることのなかった新カント派の哲学を前後の英、仏、独の科学哲学の潮流と比較し、適切な位置づけを探った。新カント派の問題意識の一部はヒューウェルら一つ前の世代のカントに影響をうけた科学哲学者にも見ることができ、また同時代のフランスにおける規約主義ともアプローチの点で比較すべき点が多いことが判明した。 これも昨年度から継続する研究として、J.S.ミルの『論理学体系』における科学哲学に関するパートを、関心を共有する研究者たちとともに精読し、同時代の他の哲学者との思想の異同などを確認した。とりわけ「帰納」の概念を巡るミルとヒューウェルの論争は哲学史的にもよく知られた論争であるが、一見現代の用法に近い立場をとっているようにみえるミルの方が、むしろエキセントリックな立場をとっている部分もあることが、丁寧な検討からみえてきた。 現代の科学哲学について考えるという点では、東アジア諸国を中心とした近隣諸国の科学哲学者を招いた国際会議を開催した。この国際会議の一つのテーマは、西洋発祥の科学哲学という分野が東アジアの諸国へと移植されたとき、東アジアに住むわれわれだからこそ焦点化したい科学哲学上のテーマはないだろうか、という点である。そうした科学哲学の文化的バイアスを考える上でも、科学哲学の歴史を振り返る作業は欠かせない。たとえば、そうしたテーマの一つである「社会派科学哲学」、すなわち科学と社会の間に生じる問題に関連するようなテーマを積極的にとりあげる科学哲学は、英米の科学哲学でも過去に存在していたが様々な歴史的事情で消えていったことが歴史の検討から分かる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の段階では19世紀科学哲学の全体像をつかむことは遠大すぎる計画として念頭においていなかったが、ある程度の見通しが得られる状況となっている。ミルを中心として、現代科学哲学との比較検討という当初の課題も順調に進められており、憂慮すべき点は今のところない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに行った研究を書籍にまとめる作業を次年度の作業の一つの目玉としたい。また、今年度までに形成した東アジア各国の科学哲学者とのネットワークをさらに育て、緊密な情報交換をすすめる。これまでの科学哲学とひと味違う科学哲学を、科学哲学の歴史の再検討と東アジアの科学哲学交流を手がかりに提案する作業を行っていきたい。
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