2018年度は、まず、ライプニッツがパリに滞在していた時期の数学研究において図形がどう活用されているかを解明する研究をおこなった。この時期の数学研究の集大成であり、無限小解析の基礎を確立させた論文『算術的求積』の命題1から7までの証明を、先行研究を批判的に参考しつつ図形の用法に着目して分析し、ライプニッツの証明において、図形は推論の媒体としての用法と証明の視覚化という二つの使われ方をしていたことを明らかにした。さらに、こうした成果をより広い数学史的視野で捉え直してライプニッツの数理哲学の独自性を浮き彫りにさせるために、ライプニッツの証明と19世紀の数学者リーマンの解析学の証明との比較を行った。これにより、対象と記号とが視覚的あらわれの点で類似する幾何学のような分野ではない解析においても、ライプニッツとリーマンは共に図形によって無限や連続を含む数的対象の構造を明らかにさせる用法が証明において見られることを指摘した。また、過去の哲学者についての研究がいかなる意味で哲学的興味を持つかという、哲学史研究がしばしば直面する課題について、ライプニッツ数理哲学研究と現代の図形推論研究の関連をモデルケースに取り、哲学史研究を現在おこなわれている哲学研究の先行研究として位置付ける「モナドロジーモデル」を提唱した。また、ライプニッツ研究書の合評会や、初期近代哲学研究者を招へいしたワークショップを主催するなど、本研究課題を多角的な視点で捉える機会を持つことができた。2019年2月には、これまでの研究成果をまとめた単著として『ライプニッツの数理哲学:空間・ 幾何学・実体をめぐって』を刊行した。
|