研究課題/領域番号 |
15K02003
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
三宅 岳史 香川大学, 教育学部, 准教授 (10599244)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 哲学史 / 社会学史 / 社会有機体説 / ベルクソン研究 |
研究実績の概要 |
今年度の研究はベルクソンが生物学と社会学の関係をどのように考えているのか、ということに焦点を当てた。同時代の社会学者であるデュルケムが社会学を科学として確立するために、その方法や対象の固有性を主張するのに対し、ベルクソンは道徳を社会的事実から説明するよりもその生物的本質へと遡らねばならないと述べている。 これは一見したところ、社会学を生物学へ還元する主張のようにも見える。ただし、『道徳と宗教の二源泉』第一章だけではなく、全体の議論を見ると確かに社会(文化)と生物(自然)の関係は切り離されることはないのだが、しかしそれらは区別されて思考されている。カンギレムが『医学について』の「有機体と社会における調節の問題」でベルクソンに触れているように、社会と有機体は別の原理で説明されている。したがって、ベルクソンの議論はスペンサーのような社会有機体説やエスピナスの『動物社会』のような社会と生物の働きの同一視とは異なると思われる。 ではベルクソンのこのような立場は、主にコントの実証哲学やその継承者であるリトレやド・ヴィトリーが社会学は生物学に基づきつつも、そこには還元されないことを強調する立場と近いのだろうか。おそらくここにも類似点と相違点が存在する。リトレらの社会学が社会的集合の精神的性質を議論し、愛他主義に基づく道徳を擁護するとき、おそらくベルクソンの「エラン・ダムール」とテーマ的にはつながっている側面があるだろう。しかしながら、ベルクソンの場合は、つねに社会的つながりを強化して集団が個に優位になるだけでなく、個が閉じた社会を開く側面もある。この点では実証主義の系譜とも異なっている。 今年度は文献を分析し、研究の準備を行うことで終始したので、来年度はこの議論をさらに精緻化し、学会発表につなげることにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最初の予想では分析する範囲がベルクソンの『道徳と宗教の二源泉』第一章に限定されると考えていたが、研究が進行するうちに、デュルケムとの比較などをいれると第二章も分析対象に入れなければならないことに気づき、またカンギレムの有機体と社会の区別については、第四章に触れているため、結局、分析対象をほぼ全章に広げて考察しなければならないことが分かった。 また、スペンサーやエスピナスの哲学などを単独でベルクソンと比較するよりは、社会有機体説という言説を整理したうえで、比較検討する必要があることも分かり、比較対象についても調査範囲を拡げなくてはならないことが判明した。 そのため、当初は単年度ごとに1つのテーマを設定したため、それらを何らかの形で研究発表を行うことを考えていたが、初年度の研究テーマの調査のめどがつくまでにもう少し時間がかかる見通しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度のテーマが『道徳と宗教の二源泉』の複数の章にまたがることが分かったため、なるべく関連個所の分析を早くまとめることにする。またその際、別の年度の研究テーマと内的関連がある場合には、あわせて分析を進めることにする。 2年目のテーマも今年度の最初から1年目のテーマと合わせて同時に研究を進行し、1年目のテーマは半年ほどで研究発表にまとめることができればと考えている。 3年目以降のテーマに関しては、研究計画の予定通りである。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究発表のために旅費を計上していたが、研究の遅れが生じたために、発表を行うことができなかった。またプリンターを初年度に購入する予定でいたが、現在、調子が悪いまま使用している危機についてまだ多くのトナーが残っているために、物品費などでも残額が生じた。主に以上の二つの理由から次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進捗で遅れた状況から予定の目標にまで進めることができれば、予定通り研究発表のため旅費を使用する。また、プリンターに関してもあと1年ほどでトナーが使用し終わると予想されるため、来年か再来年には物品費に関しても使用する予定である。
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