研究課題/領域番号 |
15K02003
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
三宅 岳史 香川大学, 教育学部, 准教授 (10599244)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ベルクソン / 社会統合 / 人類 / 絶滅 / 神秘主義 / 戦争 |
研究実績の概要 |
研究5年目の令和元年度は、フランス大革命以来のフランスで中心にあった社会統合というテーマと『道徳と宗教の二源泉』(以下『二源泉』と略記)の関係を調査した。開いたものの対象が「人類」であるという点では、コントの人類教やデュルケムの社会学で人類が社会統合の中心にあることとベルクソンは共通点をもつ。しかしコントやデュルケムの人類がフランスという社会(=国家)の統合に重ね合わせられるのに対して、ベルクソンの場合は人類概念が国家を超えた人類全体(あるいは生物全体)になるという点が異なる。 その背後には世界大戦による人類絶滅の危機という新たな問題の浮上があり、『二源泉』では社会統合という問題はむしろ背後に退いた形になっている。それどころか社会統合は閉じたものの原理とされていて(戦争本能という語が『二源泉』では用いられる)、閉じたもの同士が対立すれば戦争という新たな問題の原因とさえなると考えられている。このように、デュルケムやコントの中心的テーマであった社会統合は、ベルクソンでは欲望による技術の濫用と資源枯渇と戦争による絶滅回避という問題に書き換えられている。このような視点は、ベルクソンの社会理論が1年目の研究で見たように生物学と地続きであるということから由来していると考えられる。 ベルクソンは戦争による人類絶滅という新たな問題に対して、『二源泉』最終章では二種類の解決法を示している。一つ目は神秘家が体現する開かれた社会の実現による解決であり、二つ目は精神科学の段階的発展による解決である。おそらく後者が実証科学(ここには社会学や人類学も含まれるだろう)と哲学(実証的形而上学)の相互検証による進展という本研究に関連するテーマである。哲学と科学の相互補足的な関係は『二源泉』の方法論的な主題とつながっているだけではなく、人類絶滅の回避という実践的問題にもつながっていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の計画は予定通りであるが、研究2年目後半部分(レヴィ=ブリュールなどの研究)と4年目の半分くらい(ロンブローゾの技術論)の調査内容がまだ残っているため、研究全体の進捗状況はやや遅れており、延長を申請した。 『道徳と宗教の二源泉』第一章にかんする1年目の研究については、「ベルクソンと社会有機体説」として京都哲学史研究会で研究発表をした。発表をまだしていない研究に関しても順次発表をして行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の前半で、研究計画では2年目の『道徳と宗教の二源泉』第二章の「静的宗教」に関して、レヴィ=ブリュールの人類学による影響などを分析する。それによって、すでに調査済みの「作話機能」に関する分析とあわせて第二章の調査を完成させたい。 令和2年度の後半では、研究計画の4年目で調べる予定であったが、入手困難で分析が遅れているGina LOMBROSOの技術論の文献を解読したい。技術論については当初の予定をこえて、エスピナスの技術論との比較や、ルロワ=グーランやフリードマンへの影響なども調べているので、それらを組み込みつつ分析を進める。 それらを補足したうえで、最終的に年度の終わりに研究報告書を作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況の遅れにより、次年度使用額が生じたが、今後は進捗状況が予定通りになれば、研究の物品費、研究発表や報告のための旅費などについても、順次使用される見込みである。また予定よりも使用額が少なかった場合でも、当初の計画にはなかった研究テーマが研究の展開によって出てきているため、そちらに使用する計画である。また最終年度で研究報告書を作成する予定であり、その製本などで残額分も使用する予定である。
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