ヘーゲルの「キリスト教の精神とその運命」断片を、ドイツのベルリン州立図書館で平成28年8月および平成29年8月に原本を確認して研究分析を行った。リューネブルク大学で研究情報の交流を行い、ヘーゲルに対してヘルダーリンの及ぼした影響に関する研究文献の教示を受けた。 ヘーゲルの「贖い」については、ベルリン大学時代の『宗教哲学講義』において議論されており、ヘーゲルにとって贖罪は哲学の重要概念であることを、「宗教哲学講義」(寄川条路編『ヘーゲル講義録入門』法政大学出版局、平成28年)で分析を行った。ヘーゲルがベルリン時代に2年サイクルで講義計画を立てて行く中で、自分の宗教哲学に関する思想を組み立てて行ったことについての分析を行った(「ヘーゲル学派の講義」共訳書『ヘーゲル講義録研究』寄川条路監訳、法政大学出版局、平成27年)。 研究成果については、立命館大学哲学会で「ヘーゲルにおける贖いの思想」(平成29年)という標題で講演を行い、「ヘーゲルにおける「贖い」の思想――『キリスト教の精神とその運命』を中心に――」(『立命館大学哲学』第29集、p1-26、平成30年)と題する論文を執筆した。フランクフルト期において特徴的であるのは、「贖い」による「犠牲」を介した「和解」である。「犠牲」は、特殊を断念することによって普遍との関連を得る過程であるが、しかしこの「犠牲」はイエスの教団が実定的になるために成就しない。ヘーゲルにおける犯罪と刑罰の議論は、主題の取り扱いを「生」との取り扱いに組み込んでいる点で、後のヘーゲルの理論とは異なっているが、『法哲学』にみられる犯罪および刑罰についての理論を指し示してもいる。
|