本研究の最終年度であるH30年度には、外部からの参加者も迎えて、応用倫理学研究会および先端倫理研究セミナーを各一回実施した。また、「看護師における熟達性」に関するインタビュー調査を実施した。パトリシア・ベナーのケアリング論は、看護という営みそのものを職業的なケアリングの実践と見なし、その観点を基礎として看護師のケアリングを論じるという点に特徴があるが、ベナーは、そうした実践を論じる際に、ドレイファスらのスキル獲得の五段階モデル論を参照して、看護師の専門的なスキル発達に段階が認められると考えている。しかし、そうしたケアリング論において、どのような看護師が熟達していると見なされるのかは、それほど具体的に論じられているわけではない。またベナーは、看護師の熟達性を技術的熟達性と倫理的熟達性に区別して考えているが、それらについて、その違いや特徴をあまり詳しく説明していない。看護師に対するインタビューでは、こうした技術的熟達性と倫理的熟達性の内実を探ることを目的とした。そこから分かったことは、卓越していると見なされる看護師は、確かに技術的熟達性と倫理的熟達性の両方備えているが、各人のそこへと向かう道筋は、それぞれが置かれている状況に応じて、よく展開されたり展開されなかったりすることがある(時に逆戻りする)ということである。こうした点は、これまでの研究成果と整合するが、そこから示唆されていることは、看護師のケアリング実践において、倫理的熟達性はケアの倫理におけるケアだけではなく、手続き的な正しさや、患者やその関係者の幸福、看護師としての職業集団が共有する、職業共同体的な卓越性概念を含む徳倫理学的観点を備えているということになる。
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