研究課題/領域番号 |
15K02017
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
原田 雅樹 清泉女子大学, 付置研究所, 准教授 (90453357)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 概念の哲学 / 作用素環 / von Neumann環 / 関数解析 / 非可換積分論 / モジュラー自己同型群 / 無限次元 |
研究実績の概要 |
20世紀初頭に発展を遂げた関数解析は、解析学の代数学化ないし線形化として考えられる。測度の変換理論であるRadon-Nikodymの定理は、その一例である。このような関数解析の背景のもと、量子力学の数学的基礎づけに動機づけられながら、von Neumannは1930年代に作用素環論を創始することになる。 可換な作用素代数の極大イデアルの集合と、可換な作用素代数の一つの元である作用素のスペクトルの集合が1対1に対応付けられるという定理に基づくゲルファント変換は、作用素間に幾何学的空間概念を持ち込む。作用素環の代表的なものにvon Neumann環があるが、完全束をなす射影作用素の性質から、可換なものはルベーグ可測空間と等価になる。それを拡張して非可換なvon Neumann環をも考えることで、非可換積分論が構成される。この際、積分は代数学的なトレイスとして理解されるという関数解析の事実が用いられる。すなわち、測度に対応するエルミート作用素(量子統計力学の密度演算子)をvon Neumann環の元にかけてそのトレイスをとるという演算がweightであり、それが非可換積分ということになる。さらに、このweightをとる演算を時間発展的に不変にするモジュラー自己同型群や、weightに時間発展的に変換をほどこすCocycle differential (非可換なRadon-Nikodymの定理)が導入されることで、力学系が構成される。さらに、どんな部分も全体と同型となるという通常の集合論にはない無限次元を持つIII型von Neumann環は、II∞型von Neumann環と実数の接合積に書けるが、このII∞型von Neumann環の中心(可換部分環)にモジュラー自己同型群を作用させた際の周期性の分類によって、III型von Neumann環の構造分析が可能になったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
20世紀初頭に誕生した量子力学は、物理量の非可換性を明らかにした。また、同時期の集合論には、Banach-Tarskiの定理のような、非可換な無限群と選択公理に由来する病理現象が見出されていた。von Neumannは、そのような背景の中で、作用素環論という解析学の一分野を生み出した。そして、作用素環論には、現在に至るまで、代数学や力学系、さらには幾何学が合流し、非可換性、無限次元の構造分析、点集合を出発点とせずに作用素環という代数の双対としての空間概念を顕在化する数学を発展させてきた。力学系ないし運動に依拠した微積分を生み出したNewtonと「無限小」に依拠した微積分を生み出したLeibnizの思想にまで遡りつつ、「概念の哲学」の方法によって、作用素環論の一分野であるvon Neumann環の概念分析を試みるのが、本研究の目的である。 平成27年度は、量子統計的力学系を統合したvon Neumann 環の積分論やvon Neumann環による非可換エルゴード理論、それらを利用したIII型von Neumann環の構造分析など、von Neumann 環の理解を深めることに力を注いだ。 フランス・エピステモロジー「概念の哲学」の系譜に連なるAlain Michelの著書Constitution de la theorie moderne de l'integration (Paris, 1992)は、関数解析におけるLebesgues積分、スペクトル分解などをめぐる概念史に対して哲学的分析をほどこしている。その書によると、関数解析は解析学に代数学的手法を取り入れ、そのことにより、解析学的概念、特に無限概念の構造分析を可能にした。本研究は、この書の研究を引き継ぐ形で、作用素環論に哲学的分析をほどことを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
力学系ないし運動に依拠した微積分を生み出したNewtonと「無限小」に依拠した微積分を生み出したLeibnizの思想にまで遡りつつ、作用素環論における無限次元の解析をとらえなおしてみるというのが、本研究の目標である。平成27年度の研究においては、Newton的「力学系」とLeibniz的「無限小」に遡るということはしていない。また、Connes はIII型von Neumann環の構造分析をするにあたって、超準解析に触発されたが、超準解析はライプニッツ的「無限小」と深い関係を持っている。これらの研究はまだ行っていないので、今後、そのあたりの概念史的研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度3月末に、フランス・パリへ研究者との会合のために赴いたが、清算を2016年度に持ち越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
パリ第7大学の研究者、並びにベルギー・ナミュール大学 のDominique Lambert 氏との会合のための旅費。 書籍を中心とした資料のため。
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